おれが食いたいのはコレじゃねぇ!

夏島海域に入り、メリー号は連日の猛暑を味わっていた。

 

汗だくの体もそのままに、キッチンの扉を開いたゾロはまな板の上に並んで置かれた白い立方体に目を止める。

喜色を浮かべたのも束の間、黒い靴の残像が写り、衝撃が襲った。

 

「汗拭いてから来いって、何度言やぁ、わかんだ!アホンダラ!」

「まだ終わったわけじゃねぇのに、一々拭いてられっか!バカコック!」

 

「あぁ、なんだ。飲み物か。今持ってってやっから、てめぇは汗溜まりを拭きながら戻れ。」

 

ヒュンとモップが飛んで来て、見ると既にサンジは冷蔵庫の前に既に屈み込んでいる。

振り上げた拳の行き先に苛つくが、まな板の上の物を見て、まぁ、いいか、と鉾先を納めた。

 

 

 

「メシだぞぉ~~!」

「うおおっ~~~~!」

いつもながらの、敵襲のような雄叫びとドドドドドッという足音を聞き、催促の入る前にゾロもキッチンに向かった。

 

それは、もう、そわそわと。

 

キッチンに並んだ食事は中華。

中でもドーンと鎮座している麻婆豆腐は赤々と食欲をそそり、みんなの歓声を誘った。

「うまほ~!でも肉が無ぇぞ、サンジ~!」

「山ほどミンチが入ってる!そもそも、大豆は畑のお肉ってほど栄養価が高ぇんだ!しばらく豆腐は肉だと思って食え!」

そんな~ムチャクチャだ~

豆は豆で美味ぇけど、肉とは別物だよな~

等のブーイングをよそ事に、サンジはロビンの言葉にだけ耳を傾ける。

 

「お肉が無くなってきた?」

 

「う~ん、切羽詰まってんのは野菜だね。この暑さで、ちょっと傷みが早いから塩蔵肉もそろそろ使い切るけど。ま、小麦も豆もたっぷりあるから、心配いらないよ、ロビンちゃん♪」

 

「ふーん。そういうことなら、あんたたち!つまみ食いしたらいつも以上のお仕置きよ!肝に命じておきなさい!」

 

「流石だ、ナミさすわ~ん。マイヴィーナス!!」

 

喧騒の中、黙々と箸を進めるゾロの姿はいつも通りで、誰も気に留めなかった。

 

サンジの予告通り、それからの食事には豆腐、おから、大豆が増えていく。

揚げ出し豆腐に白和え、豆腐ステーキ、おからハンバーグ…メインディッシュだったり、小鉢のひとつだったり様々に姿を変えた大豆は言われなくてはわからないようなものも多かった。

 

見張り台にいたゾロは、登ってきたサンジの手元を見てため息を吐く。

カゴには、焼きおにぎりと、赤だし、たこわさ。ゾロの好みではあるのだが。

「こぉーら、クソ剣士。その額の皺をどうにかしろ。文句あんならハッキリ言え。」

「いや、悪ぃ。文句はねぇ。」

「言わねぇのか?」

「あ?別に無ぇぞ。美味そうだ。」

「ったりめぇだ、ぼーけ。」

ゾロから双眼鏡を受け取ると、サンジが前方を覗く。そろそろ島が近いはずなのだ。

入替りでしゃがんだゾロはがつがつと夜食を食べ始める。

その表情は十分満足げで、言わなくても美味い美味いとオーラが滲み出ていた。

横目でその姿を確認したサンジは、紫煙とともに小さなため息を零した。

 

 

翌日 到着した念願の島は、無人島だった。

「あーあぁ、これじゃ 仕入れはできないわねぇ。」

ぼやくナミの声に、サンジが答える。

「いやぁ、夏島なら問題ないよ。乾燥物はまだあるし、足りないモノは豊富そうだ。よっし、ヤローども!狩りの準備だぁ!」

「うおぉぉぉ!ウソップ行っくぞぉぉぉ!!」

雄叫びとともに飛んでいく船長に、哀れ狙撃手が引き摺られていく。

「おれは野菜代わりになりそうなもの探してくるな!」

チョッパーが大きなカゴを背負って、船を降りた。

続いて、ヒュンと飛び降りたゾロに慌てて声をかける。

「ゾロ!おめぇはこっちが先だ!」

ポイポイと空樽を2つ3つ投げつける。

「あぁ?」

「水汲みに行くぞ!狩りはその後だ!」

水汲みを終えた2人は狩り勝負 再び!とまたまた二頭のオオトカゲと巨大ワニを捕まえ、ルフィの捕えたマンモスと並べて、ナミに船が沈むでしょう!と鉄槌を喰らうことになるのだった。

 

砂浜でのバーベキューも、そろそろお開きかというとき、サンジは一人船のキッチンに戻った。

ようやく手に入った清水に浸した大豆を取り出す。暑いほどの気候が助けとなって豆はぱんぱんに膨らんでいる。

大豆を汁ごとミキサーですりつぶす。何度も手をかけなめらかなクリーム状になった大豆と汁を沸騰した清水にいれてグラグラと煮た。

丁寧にあくを掬い取り、絞ってできた豆乳はふわりと大豆の香りがした。

サンジがほくそ笑む。

 

 

こつん、とキッチンのドアが開いた。姿を現したのはゾロだ。

「あいつら、もう寝たぞ。まだなんかやってんのか?」

「いや、もう終わる。見張りは?」

「まぁ、おれだろ。」

どうせ、とゾロが肩をすくめる。

「ふん、じゃ、褒美だな。まぁ、座れ。」

コトンとガラスの杯が目の前に置かれ、同じくガラスの徳利からキンと冷えた酒が注がれる。

「どうした。大盤振る舞いじゃねぇか。」

「それだけじゃねぇぞ、素直に喜べよ。」

サンジの方が嬉しそうな顔で、小鉢を差し出した。

 

中にはぷるんと揺れる四角い豆腐。刻みのりと鰹節、おろし生姜が載せられたシンプルなものだ。

「あぁ、美味そうだ…」

感歎ともいえる声にサンジが笑う。

「悪かったな。これが食いたかったんだろ?」

「気づいてたのか。」

「ばーか。わからいでか。」

カチンと煙草に火をつけると、フゥッとそっぽを向いて煙を吐き出し、言葉を続ける。

「美味い水が無いと、美味い豆腐にゃ なんねーんだよ。濃い味付けにするしかなくてな。」

 

ゾロが豆腐の何もかかってない部分にそっと箸を立てる。

ふるんと揺れる白い豆腐を口に運ぶ。

噛むまでもなく、ほろっとなくなり、口の中に大豆の味が広がった。

「くそ美味ぇだろ?」

「おお。でもな、他のがイヤだったわけじゃねぇぞ。」

「…ふーん。まぁ、食えって。」

赤面した顔を伏せて、流しに向かおうとしたサンジの腕をゾロが捕まえた。

 

 

その後、白くて柔らかいコックをどう食したかは……剣士のみが知っている。

 

fin

 

 

ナンバーリクは10218:「豆腐冷奴で」

ひたすらゾロがイイ子になりました。

ゾロ視点で、冷奴が食べたいのに~ってモヤモヤする様しか浮かばなかったんですが、

それってどちらかで焼き鮭が食べたいっての読んだな~と思って避けたらね

大人しく待つゾロになりました。←ばらすなwww

 

この後はコックの豆腐のように滑らかで白いお尻をパクッといただくわけですね。