愛しのハニー

その島は異様な熱気に包まれていた。

それもそのはず、乾期と雨期の間のわずかなシーズンを総出で盛り上げる祭の真っ最中だったのだ。

そんな中、麦わらの一味は、村の広場で掲示板を囲んでいた。

花火に、ダンスパーティー、成人祝い、各種レースの告知の文字がところ狭しと並んでいる。

 

「ごめん、ナミさん。おれ、これだけは…」

「サンジくんが嫌いなのは気味悪い系の虫でしょ?蜂は平気じゃない。」

「一匹二匹なら大丈夫なんだよ!?でも、巣は…うじゃうじゃいるのは…ちょっとムリ…」

「身軽で慎重なサンジくんなら、私のために優勝の豪華賞品を持ってきてくれると思ったのにな。」

「あああ!女神の信頼裏切るなんて、おれにはできねーよ~。こっちなら、絶対優勝するよ?」

 

サンジが指差すのは、島内一周レース。参加資格は花婿。花嫁を抱っこして走り抜き、優勝者から順に結婚式を挙げるのだ。

遅くなると雨期に入ってしまうかもしれない当人たちにとってはこの上ない真剣勝負。

 

「それ、参加資格無いから。」

ナミの答えはにべもない。

「素っ気ないナミさんもステキだぁ~~」

 

 

 

 

「おーい、聞いてきたぞ~!蜂蜜取り競争の賞品!!」

「いくら!?」

 

ナミが狙っていたのは木に登って蜂蜜を取って来、その量で勝負する蜂蜜取り競争だった。

豪華賞品という言葉に飛びついたナミと、珍しく真っ先に反対を唱えたサンジのやりとりに食われた格好で、すっかり賛否の投票券を失ったようになっていた面々だったが、ウソップが持ち帰った情報はさすがに気になる。

 

「豪華賞品はな!なんと!この島の名物、特選牛一頭だ!!」

「なんだ、お金じゃないの~?」

「なにぃ?にぃくぅ~っ!!」

 

「まぁ、そうね。食費が浮くと思えばアリか。あ、サンジくんムリしなくていいわよ。」

「!!ナミすゎん♪心優しいあなたはやっぱり天使~」

 

盛大なメロリンをちらっと見たゾロが、ケッと吐き捨てるようにするのはお決まりで。

聞き咎めたサンジと乱闘になるのはお約束。

船を壊される心配がないのに、止める親切心を持ち合わせた仲間はいないようだった。

 

乗り気になった船長に逆らえる者はいない。
当然のごとく、ゾロとウソップを両手に抱え、レースの申し込みがなされた。
では、民族衣装にお着替えくださいと渡された包みを開いて一同大爆笑。
民族衣装は単なる長い布、要するにフンドシだったのである。
恥も外聞もあるウソップが抵抗しても、聞き入れられるわけはなく、嫌がるどころか郷愁を感じて喜んでいるゾロが、二人を手早く着付けていった。

「こんな格好、カヤには絶対ぇ、見せらんねー」
「大丈夫だぞ、ウソップ!かっこいいぞ!」
「パンツ一丁の方がまだマシだろぉ。」
嘆いたウソップは腰にタオルを巻く。
「風呂かよ、それはやめろ。」
「だってよぉ~、サンジィ~」
「まぁなぁ……、ふーっ。なんでケツ丸出しなんだよなぁ…」
「だろ!?」
「Tバック…」

「その言い方はやめろぉぉぉっ!」

「ウソップ、観念しなさいよ。ほら、移動ですって。行くわよ!」

「はぁ~い♪ ぬぁみすわーん♡」

スキップのサンジの後ろをウソップがとぼとぼとついて行った。

 

会場、と言っても ただの広い野原に到着すると既にちらほらと木に登っている少年たちがいる。

「元は成人の儀式だったそうよ。年に一度挑戦し、見事蜂蜜を持ち帰った若者は妻帯が許され、乾期にこぞって家を建てる。」
「で、翌年はあっちのレースにでるわけか。合理的だな。」
「もう一段階、合理的なのよ?」
ふふふ、と含み笑いするロビンにポヤンとサンジが見とれる。
「外に出歩けない雨期に新婚夫婦が新居で何をするかしら?」
カッと赤くなったサンジの隣から、やはり頬を染めたナミがやだ!と声を上げた。
「合理的というより、即物的!動物みたい!」
「人間の古来の欲求よ。近代化したらややこしくなりがちなのに、慣習として残されてるなんてステキじゃない。」
もう、これだから古代オタクは!とナミが憤慨していると、ルフィが呼ばれた。

ようやく順番が回ってきたようだ。
 

ふむ、と木を見渡したルフィは一際高い木に飛びついた。
狙う蜂の巣は他より遠くにありながら一回り大きく見える。
ターゲット選びから本人次第となるのだから、目の付け所は悪くない。
さすが野生の勘というものか。

「あれ?あいつ松明持ってねぇな。」
「あら。」
「バッカねぇ、どうやって蜂追っ払う気よ。」
「ええ?松明がいるのか?」
「おぉ、隣の木見てみな。松明の煙を吹きかけて、蜂がいなくなった隙に蜂蜜取ってるだろ。」

そうする間にも、ルフィはぴょんぴょんと先端までたどり着き、蜂の巣は目の前だ。

「あ」
「あら」
「やだ」
「うわあぁぁぁぁ」

蜂の巣をむんずと掴んだルフィは、グルングルンと振り回したのだ。
「何してんだ、あのバカ。」
吹っ飛ばされた蜂蜜は雨のように降り注ぎ……、蜂も吹き飛ばされた隙をついて蜂の巣に口をつけるとズゾゾゾゾッと蜂蜜をすすり上げた。しかし、当然蜂は飛んで戻ってくる。

小さな蜂達の猛攻撃を受けたルフィは手で払い、膨らんで跳ねのけ……落ちた。

「あ」
「あら」
「やだ」
「うわあぁぁぁぁ」

トナカイに変身したチョッパーがルフィの元に駆けつけるが、蜂はブンブンと二人を狙っている。
「森に逃げ込め!入り口に蜂避けの草が植わってる!!」
サンジの声が聞こえるや否や、背にルフィを乗せたチョッパーが駆け出した。

それを追う蜂、そして審判員の無情な声。
「麦わらのルフィ、失格!」

「何がしたかったわけ?あいつ。」
「ちょっと間違えちゃったのね。」

 

 

そこにウソップの呼ばれる声がした。

オドオドしながらも、ゴーグルで蜂の巣を吟味すると、するすると木に登り始めた。

その姿は危なげなく、ひょいひょいと身軽なものだ。

 

「上手だわ。」

「ま、あいつは平気だよな。マスト登んのも早ぇしな。」

「それどころか、あいつは初恋の彼女に会うために毎日木に登ってたのよ、筋金入り。」

「あら、長鼻くんたら、隅に置けないわね。」

「えぇ!鼻のくせに生意気な、そんなことがありやがったのか!」

とくとくとシロップ村の話をしている間に、ウソップは枝に辿り着いた。

 

松明を取出し、蜂の巣に煙を吹きかける。

すると、反対側が大量の蜂が飛び出した。

その隙に、こちら側の側面をナイフで切り取り、トローっと流れ出た蜂蜜を壺に受ける。

 

「量も多そうだな。こりゃ、優勝候補じゃねぇか?」

「これで、長鼻くんも大人の仲間入りね。」

「あははは!それ、本人に言ってやんなさいよ、ロビン!ねぇ、ゾロとウソップ、どっちが勝つと思う?」

蜂が巣に戻り始めると、ウソップは後退し遠くから手を伸ばし、垂れる蜂蜜をかすめ取る体勢となった。

「剣士さんなら一滴残らず持ち帰りそうよね。」

「えー、その前にあいつ他の枝に登っちまいそう!」

なるほど、とロビンが頷き、サンジとケタケタと笑いあう。

 

「どっちに賭ける?」

「長鼻くんかしら。」

「ま、鼻だよな。」

「何よ、賭けにならないじゃない!サンジくんは仮にも恋人ならゾロに賭けなさいよ!」

「あはは!いくらナミさんのお達しでも~ サンジ様の冷静な頭脳は勝ちを見極めますよ。仮じゃないけどね。」

くすり、と艶やかに笑うサンジを見てナミが赤面し、ロビンがふふふと笑った。

「航海士さんの負けね」

 

 

ウソップは島民も驚く大成功だった。
2杯目のツボをサンジが蹴り上げ、見事キャッチしたときには拍手が沸き起こったほど。

この後に出番を迎える者は、相当やりにくいはずだが、そこはゾロ。雰囲気など一切頓着せず木に登り始めた。

よく灼けた上半身と比べても見劣りしない浅黒い脚を惜しげもなく晒し、ひょいひょいと迷い無く登る。
全身に張り巡らされた筋肉が躍動する。
うっすらとかいた汗と、口にくわえた白刃が光を反射して、全身が輝く様は太陽神アポロンのようだった。
ギャラリーから、ほぉっとため息が漏れるのを耳にして、サンジがハッと我に帰る。


チキショウ うっかり見とれてた…


「かっこいいわね、ゾロのくせに。」
見透かされたようなナミの言葉にも、脊髄反射のスピードで答える。
「筋肉ダルマだよ!?」

「ふふっ 妬けちゃうのね。」

「ちがっ ロビンちゃ~ん!」

 

ゾロはあっという間に蜂の巣に辿り着いた。

煙を吹きかけ蜂が飛び去った瞬間、白刃が舞い、音も無く蜂の巣が切り刻まれる。

大量の蜂蜜がドドドッと壺に落ち、歓声が上がった。

しかし、蜂は戻ってくる。

 

壺を固定し、再び刀を構えるゾロを見上げ、まずい、とサンジ達が声を張り上げる。

 

「剣士さん!蜂殺したらダメ」

「失格だ!」「罰金よ!」

 

罰金まであるかはともかくとして、成人の儀式に蜂が使われるだけあって、昔から蜂が多く生息している島だ。

現在では盛んな養蜂が行われている。自然な蜂に頼った産業では無いとはいえ、蜂を大事にしていることは間違いない。

巣一つ分の蜂を殺せば、島民の不興を買うのは目に見えている。

 

構えていた刀を使うなという指令に、ゾロが目を剥く。

蜂の大群は目の前だ。

 

「ゾロ!!!」

 

向かってくる蜂に、壺を投げつけ、地上へ飛び降りた。

一瞬の目くらましにはなったようだったが、降り注ぐ蜂蜜を自身も浴び、次に降り注ぐのは、蜂の猛攻撃であることは一目瞭然。

 

「ゾロ!走れ!左!森だ!!」

「剣士さんがそんな一言で正しい方向に走ると思えないわ。」

「そうよね。ゾロだもん。」

 

そんな期待に応えるかのように、一目散に右へ走り出したゾロに舌うちすると、サンジが追いかけた。

 

 

 

蜂避けの草を跨ぎ越し、森に走り込むと、ようやく2人は息をついた。

 

「いて!」

ゾロが片目を瞑り、咄嗟に目にやった手をサンジが捉える。

「あぁ、ばか。擦るな。」

頭から被った蜂蜜が垂れ、目に入ったのだ。

顔を寄せ、目尻からそっと舐める。周辺の蜂蜜を舐めとり、開いた目の中にも舌先を伸ばす。

眼球に粘膜が触れたとき、ピクンとゾロの躰が震えた。

 

「まだ、いてぇ?」

 

「いや。治まったな」

 

おざなりに答えると、至近距離の薄い唇にむしゃぶりついた。

 

「ゾロ…ははっ、おめぇ、すっげ、色っぽいぜ?」

「何言ってやがる。」

再び貪ろうと近づいたゾロの唇を避け、頬の蜂蜜を舐める。

「ん、上等の蜂蜜だ。もったいねぇ。」

そのまま首筋へと舌を滑らす。

ぴちゃぴちゃと舐め続けるサンジに、ゾロの躰が熱くなり、負けじとサンジの服を脱がせにかかった。

「エロコック、なに、発情してんだ。」

呆れたような物言いに、サンジは口をへの字に曲げると、がぶっと胸筋の上でつつましく立ち上がっている尖りに噛みついた。

「いでっ!」

謝罪するかのように、優しくなぶり、先端を潰すように舌で押し付ける。

裸になった上半身をゾロにピタリとくっつけると、再度唇へと伸び上がった。

ちゅっと下唇を吸い、熱い吐息を漏らす。

「なぁ、ヌルヌルして気持ちよくねぇ?」

上下するようなサンジの動きに擦れあわされた二つの芯が熱く昂ぶる。

ゾロの上に覆い被さり、舌と両手で舐りながら、下半身へと移動する。

まとわりついてる褌を剥ぎ取ると、躊躇いもなくゾロ自身を口に含んだ。

 

 

竿に舌を絡めながらぽってりと重い袋をやわやわと揉む。
チュポンと口を離しても名残惜しげに指を絡め、顔は下へと潜っていく。袋のシワを伸ばすように舐め上げ、戸渡りを舌先で辿る。

「おい、何してる」
不穏な空気を感じたゾロが金の頭を掴むが、鈴口に爪先を突っ込んで反撃を封じた。

とうとうサンジの舌が後孔にたどり着く。

力づくで引きずり下ろすことも出来なくはないが、普段サンジに強いてる行為を全力で拒否するのも躊躇われ、ゾロは観念して目を瞑った。


いつもサンジはどうしている?

食いしばりつつあった口を薄く開き、深呼吸する。
緊張が走る下腹や脚を脱力させる。

後孔を舐っていた舌が退き、チュプと細い爪先がわずかに潜り込んだのを感じた。



次にゾロを襲ったのは、目眩がするような心地よさ。



猛る雄が狭く熱い花筒に押し入る。


いつもの感触。



「おい!」

 


「ふっ、はははっ、なに、考えてた?」

ゆらりと、身に収めたゾロの砲身をなぞるようにサンジが伸び上がる。

「この、ヤロー…」

「イイ顔見れたぜ?」

ストンと腰を落とすと、そのまま上半身を折り、ゾロの胸へすり寄る。

「けど、おれ、限界…動いて、マリモちゃん」

「バカが。ムチャしやがって。」

「思わず襲いたくなるほど、エロかったんだよ、てめぇ。」

「なに言ってやがる。驚かせたかっただけだろうが。そんなことに体張るか?アホ。」

サンジを支えて、身を入れ替える。

「ははっ、あ、いでで…そんだけの価値あったぜ、マジで。」


本当に。

さすがに、慣らしもせずに突っ込むつもりは無かったんだ。

なのに、思わずやってしまった。

 

 

 

受け入れようとしてくれただろう?

 

てめぇみたいな漢が。

 

ロロノア・ゾロが。

 

おれを。

 

 

 

 

「一度、抜くか?」

サンジが目を開けると、ごく至近距離からゾロが覗き込んでいた。

その一見怒ったように見える、眉根を寄せた顔を引き寄せ、ぺろりとサンジが舌を伸ばす。

 

「ん……それより、

 

早くイって。ナカ濡らして。奥まで、くれよ。」

 

 

ぐぁっとゾロの胸に何か熱いものがせり上がる。

その熱にうかされて、突き入れたい欲望を必死で抑え込み、繋がったまま上体を離す。

 

その動きに中に納めた部分も動き、連動するようにきゅうっとサンジが収縮した。

 

「ン…なぁ、乾いてっからかな、てめぇの形がすげぇダイレクトにわかって…悪くねぇな。」

 

「煽るな!アホ!」

 

サンジの躰を見下ろすと、紅潮した白い肌に、まとわりつく金の粘液。

ぽたり、ぽたり、と未だに自分から垂れる蜜は、その躰を色づけていく。

 

サンジが言う色っぽいだの、エロいだのというのはさっぱりわからなかったゾロだったが、なるほど、と頷く。

 

確かに、そそる。

 

ねばつく蜜を手にたっぷりと掬い取り、結合部を撫でると、小さく啼いてサンジが仰け反った。 予想外の自分の声にサンジが顔をサッと赤らめる。

 

 

「ちんたらやってんなよ、遅漏剣士!さっさとイけって。」

「ちょっとぐれぇ待てねえか、早漏コック!」

 

抜き差しを控えて、先端を擦るように中で揺すると、熱いものが迸った。

 

 

 

 

 

「おっそーい!」

「ごめん、ナミさん。こいつがさぁ…!」

「言い訳しない!仲間が表彰されてるのに、間に合わないなんて、薄情よ!」

「ごめんよぉぉぉ、え、表彰!?ウソップ?」

「へへっ まぁなぁ~!」

「おぉ!すっげぇ、ありゃ やっぱり抜かれなかったか!てめぇはやる時ゃやる男だぜ!」

「 ふふん。そりゃ、おれ様は8000人の部下を率いるキャプテーン!ウソップゥゥゥ!」

罪悪感からか、大人しく拝聴しているところをナミが割って入る。

 

「サンジくん、私を抱っこしたい?」

「え!?もっちろんさぁ!」

「走ったら優勝するって言ったわよね?次のレースなんだけど、急遽、病人が出てね!代理人を探してるって言うのよ!……なんで、腰ひけてんの?」

「え?いや?そんなこと、ないよ?」

明らかに挙動不審。

「サンジくん?気を付け!」

突然の号令に、ビシッと直立したサンジだったが、走る激痛にへにゃへにゃ、と頽れた。

何も喋るな、の言いつけを守っていたゾロが、咄嗟に支える。

気まずい空気が流れ・・・・・ナミが爆発した。

 

 

「あっそ!そういうこと!なんであんなに帰ってこなかったのかわかったわ!

真昼間の!森で!ああ、そう!このケダモノ!!」

 

「ナミすわーん。ご、かい、かも・・・よぉぉぉ?」

 

「ダッコどころか、走れないじゃない!サンジくんのばか!」

 

 

そして、サンジは真っ白な灰になった・・・・・・・・・・・・。

 

 

fin