何かの始まり A-1

寝直すと言ってウソップが部屋に戻ってから、もう一度泣いた。

これで終わりだ。

 

「なんで、おまえなんだ。」

 

刻みこめ、あの言葉を。

もう二度と間違えるな。

 

幸い、あいつは忘れている。

あの様子なら、何をしたかもあやふやだろう。

あとはおれがしらばっくれれば無かったことになる。

 

簡単じゃねぇか。

 

ノリのきいたシャツに身を包むとあちこちが擦れて痛い。

柔らかいネルシャツに腕を通し直し、ゆったりとしたカーゴパンツを履く。

これなら動きの鈍さがカバーされる。

キッチンに戻ると、先ほどと寸分たがわぬ姿で寝ている男。

ちらりと一瞥し、床に散った血痕と残滓を拭き清め、染みのついた毛布を始末する。

夕べの痕跡が一点を除いて残っていないことを確認し、

最後の一点、ゾロの下腹部に温かい濡れタオルを乗せ、踏む振りをして乱暴に拭う。

 

「起きやがれ!クソ剣士!レディのお目覚め前にその汚ねぇモンをしまえ!!」

 

「いってぇー!何しやがる!アホコック!え、あれ?」

「なんだ、カビ頭。」

「てめぇ、戻ったのか。」

「はぁ?人語をしゃべれマリモマン。」

「一緒に寝てたよな。」

「なんで、てめぇと寝なきゃいけねーんだ。おれの添い寝はナミさん限定だ。

 頭ん中まで黴びやがったか?

 どうでもいいから、サッサと服着て、出て行きやがれ。

 目障りだ。

 てめぇが視界に入ると爽やかモーニングプレートがブロッコリーだらけになりそうだ。」

もう一枚の濡れタオルを投げつけながらシッシッと手を振る。

「朝っぱらからうるせーな!

 おれが居るくれぇで失敗すんのは、てめぇの腕が悪ぃんだろうがよ!」

 

言い返しながらもキッチンから出て行く男を睨みつけ、

 

ドアが完全に閉まると膝から力が抜けた。

 

「ははっ。きっちぃな~、こりゃ。」

 

おれは床にへたり込み、頭を抱えた。

 

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