キッチンに戻るとゾロは居なかった。
おれと入れ替わりで風呂を使っているのかもしれないし、
夜明け時の涼しさなどものともしない男だ、甲板で寝直しているのかもしれない。
床に残る痕跡に目をやる。
湯を沸かし、シミになった血痕と残滓を丁寧に拭っていると、鼻の奥がツンと痛くなった。
後甲板で、うつらうつらしながら、夕べの出来事に思いを馳せる。
サンジが仲間になってすぐから、気になって仕方なかった。
自分から喧嘩を売るほど、他人に興味を持ったことなどないのに、
あいつがふらふらと女に言い寄っているのはムカついて、
良いように使われている姿を見ればイライラした。
自覚するのに時間は掛からなかった。
だが、剣の道を究めるまで、邪念にかかずりあっている気など無かったから、
当然告白なんてするつもりも無かった。
仲間として一緒に呑んで笑って、喧嘩する関係に満足もしていた。
けれど。
目に焼き付いた白い肌、白い脚に流れた白い液体、
何よりも、今までに見たことのない微笑み。
柔らかい、優しいあの笑顔。
おれはあれを手に入れたらしい。
どう思いを告げたのか覚えちゃいねーが、
あいつは軽そうに見えて勢いや成り行きでセックスするような男じゃないことも、
簡単にゃ男を受け入れられないだろうプライドの高さも知っている。
そういうことをした以上、そういう関係になったってことだろう。
笑いが込み上げて、慌てて口を引き締める。
初めてのあいつを覚えてねーのは惜しい気がするが、
なぁに、これからいくらでもやりゃいい。
そこまで考えて半勃ちになってるオノレに目をやる。
参ったな。
朝、女を買った記憶も無ぇのにスッキリしていて驚いたってのに、
ちっと考えただけでこれかよ。おまえは覚えてんのか、おい。
夜半過ぎ、キッチンの明かりが消えるのを見計らって見張り台から降りたおれは
サンジに声をかけた。
「これから、いいか?」
「一回やったら何度でも同じってか?ははっ!
・・・・別に構わねーよ。」
おれは朝からずっと待ちかねていたってのに、こいつはそうじゃないんだろうか。