何かの始まり B-3

知られているというのは、気が楽になるもんだ。

それ以来フランキーの見張りのときに顔を出すのが習慣になった。

時期的にフランキーはゾロが好きな相手である可能性が無いってのも楽になる要因だろう。

今までクルーに知られないよう気をつけていた。

 

うっかりバレてゾロの恋愛を潰すワケにはいかないから。

この船にいるかも知らない、知りたくない相手から

夜毎の情事を隠すことに、おれは思った以上に疲れていたらしい。

 

 

その日もゾロとのコトが終わってから見張り台に登った。

ため息をついたおれにフランキーは何も聞かずコーラを差し出してくれる。

「お疲れさん。」

セックスしてきて労われるってのも変な気分だ。

でも、

 

「ホント、疲れたな。」

 

「やめらんねーのか?」

 

「たとえばさ、欲しくてたまらなかったモンが入った袋が手の先に引っかかってんだ。

 そのまんまじゃ、中身は手に入んねーってわかっててもさ、おまえ、手放せる?」

 

質問に質問で答えるマナー違反だが、鷹揚なフランキーは気にしない。

んー?なんて考えている。

 

「おれはできねーんだよな。未練たらしく、しがみついてんだ。」

 

膝を抱えて膝頭に顔を埋めると毛布が降ってきた。

 

「泣いてねーぞ。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

ポンポンと頭を叩くリズムが心地良くて、いつのまにかそのまま寝入ってしまった。

久しぶりに夢も見ないで熟睡したようだ。

難を言えば変な格好で寝たせいで翌朝は体中が痛かった。

 

 

 

 

 

初めての朝以来、あの笑顔は見られない。

日中はそれまで通りに馬鹿笑いもするけど、二人になった途端、妙な緊張感が生まれる。

夜中の逢瀬は変わらず拒まれないが、終わるとそそくさと居なくなってしまう。

ある島の店主に中出しは腹下すぞって怒られるまで、

ゴムをつけてなかったからそのせいかと思ったんだが、今でもやっぱり居なくなる。

そのサンジが明け方にフランキーがいるはずの見張り台から降りてくるのを見たときは驚いた。

掴み掛かって問い詰める寸前だった。

あいつは優しいヤツだから、言い出せないでいるのかもしれない。

心変わりしたって。

そもそも、本当におれは惚れられてたのか?

おれが可哀相で付き合ってくれてただけじゃないのか?

あの夜を忘れたことを、おれは初めて後悔した。

それから10日、そんな気持ちを抱えたままサンジを誘うこともできないし、

もちろん聞くこともできない。

今まで2日とあけずに重ねた逢瀬を、あいつからは求めてくれない。

それが、何より雄弁な答えだと思えた。

そんなとき着いた島では船番を志願した。

 

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