何かの始まり B-6

「どけ」

「なんで泣いてる・・・やっぱりイヤだったか・・・」

何を言えってんだ。虐められて泣きましたってか?言うもんか。

「見るな。」

振り払おうとしても、おれの手を掴んだぶっとい腕はビクともしねぇ。

「好きだって言ってくれたじゃねぇか・・・」

だから?おれには何してもいいってのか?

睨んでやろうと、精一杯横にそむけていた顔を伸し掛かっている男に向けて驚いた。

 

てめぇこそ、泣きそうじゃねぇか。

 

「なぁ、とにかくどいてくれ。座りたい。」

ノロノロとゾロが体を起こし、おれの身体も引き起こしてくれる。

真っ裸で胡坐という、とんでもなく間抜けな恰好だな。服を着たまま局所だけ出ているヤツと

どっちがマシだろう、なんてよそ事を考えていたら、少し落ち着いてきた。

タバコが吸いたいが、おれの服はどこに行っちまったんだか。

煙のかわりに、細く、長い ため息を吐く。

 

「あのさぁ、好きなヤツに好きって言われりゃ嬉しいさ。普通じゃね?」

下を向いたまま、緑頭がこくんと動く。

 

「好きなヤツに触られたら、感じるのも普通だと思うんだよな。」  

また緑頭が動く。

こんな状態だってのに、マリモの上下運動がかわいいとか思っちまうんだから、終わってるよな。

惚れた方が負けってこういうことか。

一度は止まった涙腺がまた緩み始めたみてぇだ。

 

「それを、侮蔑されっ、と悲し、も、当たりま、だろ。」

 

くそ!

喉がつまる。

目元を拭い、鼻をすすって、深呼吸をひとつ。

 

「もういい。」

 

息が整ってるうちに一気に喋ったら、ゾロに抱きしめられた。

 

たまにでも、こんなんしてくれたら良いな。  

熱い体だ。

ゾロの匂いだ。

柔らかくて甘い匂いのレディの方が良いはずなのに、堅い体に包み込まれて、うっとりしちまう。

結局のところ、おれはこんなにこいつが好きなんだ。

こいつの行動に、ひとっかけらも好かれてると思えるところは無いのに、

何をしてぇんだか、これっぽっちも伝わってこねぇってのに

浮かれる気持ちはどうしようも、ない。

 

 

「好きなんだ。直すから、教えてくれ。諦めねぇでくれ。」

 

「・・・てめぇのセックスは・・・愛されてる気がしねぇんだよ・・・必要なとこだけ弄くって、

 ひでぇことばっか言って・・・」

改めて言うと女々しいこと、この上ない。

「やっぱ、良い。」

「なんでだよ!言えよ。頼むから。」

いや、もう、恥ずかしいんだって。マジで。

聞こうとしてくれただけで、嬉しいし、いいよ。

 

こいつの勘違いかもしれないけれど。

「おれ好かれてんだよな?」

「おぅ」

「なら、良い。ホントに。」

それを信じれば、我慢できる。

 

「分かんねーんだよ。てめぇをヨくさせてーんだ。」

そうか。その気持ちは分かる。相手が自分の愛撫で高まっていくのってたまんねーもんな。

男の本能じゃねーの?だから、てめぇのセックスに絶望したんだよ。参ったな。

「じゃぁ、さ、キス位しねぇ?」

「キスはしたことねぇ」

「え!てめぇ、童貞?」

「んなわけあるか!」

がぁっと怒鳴るゾロの口にチュッと口付ける。

「口あけすぎ。」

少し閉じた口に再び唇を合わせ、咥内を舐めまわしながら、上体をゾロ側に倒した。覆い被さってゾロの眼を覗き込む。

「ど?」

「こんなイイもんとは知らなかったな。」

「夜の街のお姉様に習ってねーとは知らなかったぜ。」

イヤミをひとつ投げて三度唇を合わせる。

ゾロの舌をつつき、絡ませて、おれの口に引っ張り込むと、おれのやり方を真似るように動いて気恥ずかしい。たどたどしいけど、勘が良いんだろうか、気持ちイイ。息継ぎの合間にそう言ってやると、体が反転した。

伸し掛かってくる男の背中に手を回し、シャツを引っ張り上げる。

一瞬唇を離し、ゾロの服を脱がせることに成功する。

始めてのとき以来、触れることのできなかった意外と肌理の細かい肌に縋り付く。

勘違いでもいい。

今だけでもいい。

またへこむ結果になっても、やっぱり信じたい。

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