ひなまつり 2

宴の夜の常として、不寝番を引き受けたゾロの元に鼻歌が近づいてきた。

「ご機嫌だな。」

「おうよ、最高だぜ。この歳になって誕生日ができるとはなぁ~ へへっ」

「霜柱って知ってるか?」

「ん~?一応、知ってっけど、本物は見たことねぇな。」

「おれが、朝稽古に行く頃、地面は一面霜柱でサクサクいうんだ。

 川は雪解け水が流れ始めてて、すげー勢いでな。」

 

突然の珍しい話題に耳を傾ける。

「枯れ枝みてぇだった木々の先が膨らんで、こまっけぇ芽が出る。

 雪の割れ目からは、蕗の薹や土筆が顔を出す。

 空はスコーンと晴れて、新芽やら雪やらがみんなキラキラ光ってんだ。」

「それがお前の故郷か。」

「おう。てめぇの誕生日はそんなんだ。」

「は・・・」

ポカンとゾロを見つめたまん丸の目玉が、ふんわりと弧を描く。

「良い季節だな。」

ゾロがサンジの手を取る。

しっとりと冷たい手。

ひたすら重く積もる冷たい冬の雪ではなく、命の息吹きを垣間見せる、溶け始めた春の雪。

「あぁ。てめぇにピッタリだ。」

捉えた手のひらに、チュッと口付ける。

そして、何よりも。

「そうなるとな、漬け物ばっかのメシも終わりの合図だ。」

「あははっ!おれの季節か!」

「そうだろ。てめぇがいなきゃ、美味いメシにはありつけねー。」

豪奢な金髪に指を絡めながら、満足げに頷く。

村の黄金色と言えば秋の稲穂だが、全体が煌めく春の方がぴったりではないか。

満ち足りた幸せの中で、二人いつまでも抱き合っていた。

 

fin