長く続いた魚人の支配が終わった反動か、
決して裕福な蓄えを持つ余裕のなかった村人のなけなしの宴会は3晩目に突入した。
我らがG・M号にも沈没せんばかりの食糧を提供してくれて、
明日の出港を待つばかりとなっていた。
手を組んだだけと言い張っていたナミが、改めて一味の航海士として乗り組むことは
言葉にされないまま暗黙の了解となっていた。
ナミは8年間この村のために生きてきた。
しかし、裏切り者と謗られるだけの村だったから、
親しく言葉を交わす友人も、別れを惜しむ場所もない。
ノジコと、ベルメールの家、墓、畑のみだ。
村人に嫌われていなかった、全て自分のための演技だった・・・それがわかった以上、
ココヤシ村に留まれば、普通の娘らしい幸福が待っているのかもしれない。
ナミの中に全世界の地図を書く夢と、今まで望むことを禁じていた村での幸福が
心の中の天秤の両端に乗っかっていた。
「ナ~ミさんっ」
「サンジくん」
「物思いにふけるナミさんもステキだぁ~、まさに憂いの女神!」
ナミは小さく苦笑して、ふと浮かんだ疑問をぶつける。
「お店での口説き方と違うのね?」
「え!そう、かな?」
「誰か、本命をみつけたんじゃない?
前はあわよくば、って下心が見えたのに、無くなってるもの。」
「ぅえ、そ、そんなことないよ~
今だって、ナミさんに下心アリアリ。ただ、そのハートごと攫えたらって思ってるだけ。」
バラティエで会ったときの初対面のサンジはもっとスマートで、アーロンのことが無くて、
退店前にもう一度誘われたらグラッときたかもしれない程度にこなれたナンパだったのだ。
それが、再会後は人外なメロメロを見せるばかりで、本気のナンパとは程遠い。
でも、他の3人とは少なからず航海を共にしてきたが、
サンジばかりは、バラティエで二言、三言交わしただけ、なのに、命がけで戦ってくれた。
そもそも、ルフィの誘いを頑なに断っていたサンジがここにいるのはどうしてか。
そんなことをナミがツラツラと考えている間、サンジはひとしきりナミを賛辞していた。
「ナミさ~ん、だから、本当におれの本命はナミさんなんだよぉ~。」
「はいはい、わかった。照れなくていいから。
この島の子なのね。ココヤシ村?
バラティエからもそう遠くないし、知ってる子を助けに来たんでしょ。
明日、出港しちゃっていいの?私、橋渡ししてあげるわよ?」
「ナミさん・・・」
特徴的な眉毛をへにょんと下げ、世にも情けない顔でナミを見つめる。
「バレてるんだから、おっしゃい!だれ!?」
「―――ほんとに、この島に来るのは初めてです・・・」
「じゃ、本命は?」
「―――ん―――」
話半分で逃げることも女性相手ではできない自分に歯噛みしつつ、サンジは眼を逸らす。
「――ルフィ?」