「えっ?ちがうよ、ルフィじゃない。
なんで・・・って、そっか。ナミさんはルフィか。」
「え!ちが、ちがうわよ。
サンジくんバラティエ出るの嫌がってたから、なんかあったかな、って思っただけ!」
ナミが耳まで赤く染めながら、珍しく必死に反論するが、もちろん通じない。
「はい、はい。そうですね~、なんかはあったかな。
でも、ルフィじゃないから安心して~って、ルフィ男じゃん!」
「おそ!」
サンジの反応に、ナミも合点がいくものを感じ、にやりと笑う。
「あ~、わかっちゃった。男なんだ、本命。」
このままルフィの話に路線変更を望んでいたサンジだが、あっさり形勢逆転され、更に追い込まれる。
「自分だけ弱み握って終わるつもり?卑怯じゃない、言いなさい!ウソップ?ゾロ?」
「あ――、なんで二択―――」
「だって、そうでしょ?」
サンジが頭を抱え、大きくため息を吐く。
「は――っ
衝撃的な映像を見ちゃって、そんな気になっちゃってるだけです。
おれは本来レディにしか恋できない男なんでね。
今は一刻も早く忘れて、軌道修正しようと思ってるから、ナミさんも忘れて?」
下からのぞくようにナミを見上げ、両手を合わせる。
「男同士だから?」
「まぁ、それもあるけど、
あんな命がけの人生を送ってるようなヤツに惚れてたら、こっちの心臓がもたないよ。」
「それは私もかも。」
「ははっ!
ねぇ、ナミさん。楽しみだね。一緒に航海しようね。」
「きっと、惚れた腫れたなんてやってる暇もない、大変な旅よ!」
「そりゃ、願ったりだ!
でもさ、ナミさん、応援するよ?」
「ありがと。私だって応援したいのよ?」
「忘れる前に、覚悟が決まったら・・・お願いするかもな~?」
「あいつの船での寝腐れっぷりみたら、あっさり冷めちゃうかもね!」
「そんなひでぇんだ!って、なんで特定できてんのぉ~」
「ウソップが命がけの衝撃映像なんて見せられるわけないもん。」
「あ~、もう、聡明なナミさんもステキだぁ~
おれに乗り換えちゃう気になったら、言ってね~ん。」
「はいはい。」
おふざけを軽く流すと、サンジが思いがけず真摯な眼でナミを見つめていた。
「村でやり残してることあるだろうけどさ、絶対夢を叶えて無事に戻ってこようよ。
きっと旅に出るのは今を逃しちゃいけないんだ。この最高のメンバーでグランドラインに行こう。」
「うん、うん。そうだね。」
今出発したらココヤシ村での幸せを逃すんじゃないか、
旅に出たいのは、純粋に夢のためか、ルフィについていく言い訳なんじゃないか、
ナミの中で揺れ動いていた天秤がスッと静まった。
今こそ、船出のとき。
fin