いつから出来上がっていたのか、さすがにそこまでは知らないが、ナミとロビンが気づいたときには、ゾロとサンジは紛れもなくカップルだった。
隠そうともしないゾロはともかく、いまだ知られてないと思っているサンジがちょっとしたことで慌てふためいたり、そのくせ酔わせればぽややーんとノロケ話を口から滑らす、それが二人は可愛くて仕方なかった。
(バカな子ほどかわいいってホントね。)
と年下の女性からしみじみ思われていることなど、気づきもせず、当人は額に汗を滲ませながら、クレープ指導をしている。
まずレディの分、と2枚お手本で焼いたサンジに続いて自他ともに認める器用なウソップがコンロの前に立つ。
熱したクレープパンに薄くバターを伸ばしたところへ、レードルですくったタネを流し込む。
「傾けて、満遍なく伸ばせ。」
言葉とともにウソップの背後から手ごとパンをつかみ、くるーりと回すようにタネを隅まで行き渡らせる。
(あーらら)
抱きつくような格好に敏感に反応したのは女子二人。いや、密かにもう一人。
ピクリと眉の上がったゾロを見て、再び(あらあら)と思った心情が(面白くなりそう)であることこそ、可哀相なゾロである。
無難に焼いたウソップ、チョッパー、ブルックだが、裏面を焼くときに端がめくれてくっついてしまった。
そこが難関か、と次のフランキーは10本の指先から鉄串を伸ばし、するりと円周全部から持ち上げてキレイにひっくり返したが、「反則だ」との抗議を受けあえなく敗退。
ルフィは見事な団子を作り上げ、そしてゾロの番。
神妙な面持ちでパンとフライ返しを駆使して、
「分厚っ!なんじゃそりゃ、ピタパンか。それじゃ巻けねーだろ!
「薄くすりゃ良いんだな!!」
すらりと剣を抜くとすかさずサンジの踵が脳天に炸裂した。
「アホか!!人斬り包丁で食いもんスライスする気か!!」
と言うわけで、暫定四位となった。
しかも一位三人の作品も、サンジと女性陣の判定では、
二回戦の開幕である。
順番決めじゃんけんをしている間にできたクレープはカスタードク
「サンジ~、おれはカチョウより食べる係がいいぞ!」
続いて棄権するもの、
「クソマリモ、もう上等じゃね?みんな棄権しちまってるし、
「アホ。そんな譲られた勝ちなんざ要るか。」
「もうタネも無ぇじゃん。」
カウンターキッチンの前に座って、
「無いとか言って、新しいタネ作ってるわよね。」
「ええ、しかもあの大きなボールでたっぷりよ。」
「まあな!クレープは焼いときゃ冷凍も出来るし、
女性陣の鋭い眼は次のターゲットを見つける。
「ねえ、ゾロあれ食べてる。」
「そりゃそうよ。愛情たっぷりですもの。」
あれとは、ハムとレタス、チーズ、マヨネーズ巻いたクレープ。
「ホンット「マメよねぇ~」」
「ナミさん!!ロビンちゃん!!お茶のおかわりはいかが!?
「サンジくん、冷た~い。そんな邪険にしないで~。」
「ふふっ、そりゃ邪魔よね。」
「な!そんな、お二人を邪魔になんて…!」
「うるせえ、てめぇら。出来たぞ。」
ゾロの手元には、完璧な円を描く薄いクレープ。
「すげえ。ははっ!頑張ったなぁ~、ゾロ!」
ナミとロビンは椅子から立ち上がると、サンジの脇をすり抜けた。
「それは二人でいただきなさい。」
「うちを導くラッキーアイテムでしょ、心して召し上がれ。
場所を交代したサンジの手でオレンジソースが作られる。
クレープを静かに沈め、グランマニエをかけてフランベすると蒼い炎が揺らめき、ふわりと芳香が立ちのぼった。
音もなくゾロの前に置かれたクレープシュゼットをゾロがそのまま
「おまえが食え。」
ナイフでカットしたそれをゆっくり咀嚼する。
「美味えよ。」
フォークで刺した一切れをゾロに差し出しながら、
「なぁ、なんであそこまでムキになってたんだ?」
「てめぇは分かんなくていい。」
「おれの旦那様とか言われてたからか?」
「!っんだよ、分かってんじゃねえか。」
「だって、あんなおふざけ…。」
「お遊びだろうが、なんだろうが、
「おまえ、おれの旦那なの。」
「…違うのかよ。」
「ふっ、へへへ…」
立ち上がったサンジは零れる笑みを抑えきれないまま、
「嫁さんにゃなれねーけどな」
「そんな言葉尻はどうでもいい、おれの連れ合いはてめぇだろ。」
ゾロの肩に熱くなった頬を埋めるサンジには見えなかったが、
fin
クレープの日でした。
クレープの黄色い丸いところが太陽を思わせるから、2月2日聖燭祭の日に食べるとか、
小麦粉が貴重だったころ、キリスト教のお祭りのときの豪華なデザートとしてクレープを食べたとか
いろんなお話があるようですが、ともかく、2/2はクレープの日なんですって。
フランスの伝統的な習慣として、なにかで読んで、気に入ってたので、やりたかったの。
あと、お口アーン がしたかった(笑)
話中でやってるのはクレープ占い。
本当は、片手にクレープパンを持ち生地を広げ、もう片方の手には金貨を握る。
クレープを宙に投げ、クレープパンに戻すことができたらその年は幸運に恵まれる、というものなので、
ちょっと違います。
空中ポーンは難しすぎるでしょ。