はぁっ 1

「ゾロ」

 

静かな声が思った以上に近くで聞こえ、ドキリとする。

振り向く前に、こつんと肩にコックが額を乗せる。

時と場合によっちゃ、何てこたぁ無いんだが、ここは夕食後のキッチン。

それぞれが好き勝手なことをしているとは言え、全員が集まっている室内だ。

人前でケンカ以外の接触をしてくるなんて有り得ない。

一体何があったんだ。

食糧不足か。

病気か。

おれはどうしたらいい?

とりあえず、抱きしめちまっていいものか?

 

と、そのとき。

 

「うわっ!あっちぃ!!」

 

「ぎゃはははっ」

「あーははは」

「すげー!ゾロ!すげー声!」

「あんた、全然鈍いかと思った!あはは!いがいー。」

「うふふ、思ったより敏感なのね、かわいいわ。」

「きゃははっ、やっぱりおれがやりたかったー」

 

慌てて背中に手をやるが、湯をかけたわけでも無いらしい。

濡れてるわけでも痛くもない。

 

「なんなんだ。」

 

チョッパーが駆け寄って来た。

「あのね、手にハァーッってするとあったかいだろ。」

両掌を自分の口に近づけて説明しだした。

「なのに、人にくっつけてハァーッってするとすげー熱いんだ!」

ウソップとルフィも飛んで来た。

「口をカパッと開けてだな、ターゲットとの間に隙間をなくすのがポイントだ!」

「チョッパーのは熱くねーんだよ!」

「仕方ないじゃないかぁーっ!」

ルフィとチョッパーが代わる代わる同じことをしてくるが、もうわかってるから、ルフィだって大して熱く感じない。

 

やり方は分かった。

でも、聞きたいのはそこじゃない。

「で。何なんだ。」

コックとナミの話によると昼間そっと忍び寄り、背後からこれをして驚かすのが流行ったんだと。

順繰りにやっていって、おれのとこにも何度か来たのに、振り向くから出来なくて、これを計画したそうだ。

なんつーアホくさい。

ガキなこった。

好き勝手なことをそれぞれがやってるかと思ったら、全員で今か今かとおれらを意識してたわけだ。

あー面白かった、とナミが立ったのを皮切りにばらばらとキッチンから出て行った。

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