「ゾロ」
静かな声が思った以上に近くで聞こえ、ドキリとする。
振り向く前に、こつんと肩にコックが額を乗せる。
時と場合によっちゃ、何てこたぁ無いんだが、ここは夕食後のキッチン。
それぞれが好き勝手なことをしているとは言え、全員が集まっている室内だ。
人前でケンカ以外の接触をしてくるなんて有り得ない。
一体何があったんだ。
食糧不足か。
病気か。
おれはどうしたらいい?
とりあえず、抱きしめちまっていいものか?
と、そのとき。
「うわっ!あっちぃ!!」
「ぎゃはははっ」
「あーははは」
「すげー!ゾロ!すげー声!」
「あんた、全然鈍いかと思った!あはは!いがいー。」
「うふふ、思ったより敏感なのね、かわいいわ。」
「きゃははっ、やっぱりおれがやりたかったー」
慌てて背中に手をやるが、湯をかけたわけでも無いらしい。
濡れてるわけでも痛くもない。
「なんなんだ。」
チョッパーが駆け寄って来た。
「あのね、手にハァーッってするとあったかいだろ。」
両掌を自分の口に近づけて説明しだした。
「なのに、人にくっつけてハァーッってするとすげー熱いんだ!」
ウソップとルフィも飛んで来た。
「口をカパッと開けてだな、ターゲットとの間に隙間をなくすのがポイントだ!」
「チョッパーのは熱くねーんだよ!」
「仕方ないじゃないかぁーっ!」
ルフィとチョッパーが代わる代わる同じことをしてくるが、もうわかってるから、ルフィだって大して熱く感じない。
やり方は分かった。
でも、聞きたいのはそこじゃない。
「で。何なんだ。」
コックとナミの話によると昼間そっと忍び寄り、背後からこれをして驚かすのが流行ったんだと。
順繰りにやっていって、おれのとこにも何度か来たのに、振り向くから出来なくて、これを計画したそうだ。
なんつーアホくさい。
ガキなこった。
好き勝手なことをそれぞれがやってるかと思ったら、全員で今か今かとおれらを意識してたわけだ。
あー面白かった、とナミが立ったのを皮切りにばらばらとキッチンから出て行った。