彼について sideS

 

あんなヤツ、大っきらいだ。

出会う前から、知っていたんだ。
しょっちゅう新聞に載ってた魔獣が、まさかおれと同い年とは思わなかったけどな。
まだ旅立つ時期じゃねぇ なんて、おれが夢押し隠して安穏としているときから
あいつは身一つで野望のために戦っていたんだ。なんだよ、その潔さ。
とてつもない野望に向かって突き進む、死を恐れない強さ。
ガキの頃の約束を貫き通す、バカみてぇな真っすぐさ。
眩しくて、真っ向から見返すこともできねぇよ。

大体、おれとほぼ同じ背丈なのに、あの厚みは反則だろ!
あいつが、毎日何千回と振り回してる鉄団子、おれは持ち上げる自信がねぇ。
逞しい首、力強い腕、分厚い胸、がっしりした腰…

刀を振るう節くれだったごつい手、どんだけでっけぇのかと思ってたら、
大して変わらないことに最近気付いた。

それにあのみどり頭!
短く刈り込まれた髪は、若葉のようでおれには縁遠い陸地より、大地を感じさせる。
一ん日中、外にいるからか、陽だまりみてぇな匂いもするんだよな。
からかうフリして髪を触るとき、思わずニヤケちまう。

日焼けした浅黒い肌もずりぃ。
おれの生っ白い肌は、日にあたり過ぎると真っ赤になって水ぶくれができちまう。
あの肌だから、斜めに走るあの傷さえ、勲章のようだ。

切れ長の瞳、意思の強さを表すようなキリッとした眉毛。
ホントはバカのくせに賢そうに見える秀でた額。
そんな見かけに、あの中身入れたのは誰だ!って怒鳴りたくなる寝汚さ。
嵐になろうが、雪が積もろうが死んだように寝てやがる。
そのくせ、敵襲なんかにゃ、人一倍早く気付くんだ。

なんでも美味そうに食うくせに、美味いの一言も言いやしねぇ。
酒さえありゃ良いみてぇなことばっかり言う意地っ張り。
レディたちとの甘いひと時は、いっつもあいつが邪魔しやがる。
そんなにおれが嫌いかよ。

一緒に戦うと、見なくてもわかる次の動き。
今までなんもかんも背後に守って、一人で戦ってきたおれが、
こいつになら戦闘中でも安心して背中を預けられる。
なのに、あいつはそれほどおれを信用してないのか、ひでぇ怪我してても無茶しやがる。

鷹の眼との戦いを見てなかったら、おれはまだうずくまっていただろう。
あいつに認められたい、そんなことを考えちまうから、おれはあいつが嫌いだよ。

 

fin