道標

躯を真っ二つにするような斜めに走る傷を白い手がなぞる。

新しい皮膚が盛り上がって傷を埋め、もう治療は不要だと主張している。

 

「ったく。他の男に跡残させやがって。」

サンジは左胸の小さいけれど、一際深い傷にだけくるくると薬を塗りガーゼをペタンと貼った。

「何、言ってんだよ。」

「別に!」

 

解いた包帯を抱えて立ち上がった男を後ろから引っ張る。

抱えて項に吸いつくと赤い花が咲く。

 

「こら」

サンジが形ばかりの抵抗を示す。

 

「てめぇはおれの跡だけ残しとけよ。」

「勝手なヤツ!てめぇはレディの思い出抱えて、他の男追ってるくせに。」

口をついて出た言葉にサンジの方が唖然とする。

 

くいなとの約束も、野望を追う姿も、好ましいと思っていたから。

嫉妬しないと言えば嘘になるが、それ以上に大切だと、一緒に大事にしたいと思っているのに。

 

「そうだな。」

「そうじゃねぇだろ!」

静かに同意するゾロを突き飛ばす。

「そうじゃねぇんだよ・・・わかってっし・・・

 そりゃな!おれだって、かぁわいい幼なじみが欲しかったっつうアレで・・」

ごにょごにょと言い訳をするサンジに傍らの白い刀を渡す。

「てめぇもやっていいぞ。」

 

無造作に渡された刀の鞘と柄を両手で掴む。

左右に力を入れると、銀の刃が輝いた。

見つめるサンジに声がかかる。

「おい、てめぇの好きにしていいぞ。軽いと跡になんねーからな。」

 

パチンと刃を仕舞って顔を上げる。

「は?何?」

「だから、てめぇも斬れって。」

「何言ってんだ、マゾ?くせになっちゃった?」

「ちげーよ。でも、そんなんでてめぇの気が晴れるなら安いもんだろ。」

「ばっかじゃねぇの!おれぁ、気晴らしに人斬る趣味は無ぇ!」

 

ギリギリと刀を押し付け合う二人の間にウソップの声が響いた。

「昨日の包帯乾いたぜ~。まだいるか?」

 

刀を挟んで睨み合う二人を見、ギョッとする。

「なにやってんだよ!ケンカに刀まで持ち出すなって!」

 

「だよな!」

その隙に刀から手を離したサンジはウソップに駆け寄る。

「包帯もういらねーぞ。仕舞っちまおう。」

 

「ちっ」

戸棚に向かう二人を見やり、舌打ちを打ったゾロが、

この話は後回しか、とシャツに首を通したとき、サンジに蹴倒された。

サンジはそのまま馬乗りになり、ゾロのシャツに手をかける。

「さっさと着てんじゃねぇよ。」

わざと顔を覆うように服をもたつかせると、ウソップに手伝えと声をかける。

「なに、してんだ!てめぇ。」

「うるせー、暴れんなよ。好きにしていいんだろ?男に二言は無えよなぁ?」

 

 

 

サンジが手にした得物は極太マジック。

鷹の目の傷と平行して走った線路には、

ウソップの手伝いによって、へそステーションを出発する2両編成の電車が走り出したのだった。

 

 

二年後(R18)