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Pain 2

(1/17分)

 

「その女は何も言ってこないのか?」

崖の下に積もった枯れ葉を払いのけながら、ゾロが口にした途端、後頭部に竹箒が直撃した。

蹴り禁止になってから手近なものを投げるようになったのだ。

威力とヒット率はなかなかのものである。

「その女呼ばわりはやめろ!

 アリシアちゃん、あれっきりなんだよな~」

「赤ん坊の移動が、最後の力だったのかもしれないわね。」

最近積もったと思われる枯れ葉を取り除いて現れた地面には、

掘り返した後は見られなかった。

 

「この辺じゃないね。

 埋まってるんじゃなければ、匂いでわかるよ。」

「もう、暗くなる。今日は引き上げよう。」

 

起伏の激しい丘陵地ばかりの島には、崖と表現できる箇所が数多く存在した。

サンジが遭遇した道を中心に、円を書くように虱潰しで捜索していた一行だったが、

落ち葉の季節が災いし、もう一週間が経過しようというのに、手掛かりひとつ得ていなかった。

今日こそ、と意気揚々と降りた崖を空手で登り始めた4人の口から溜め息が漏れる。

 

膨れた腹部のサンジは先に上がったロビンの生やす手で、上へと送られる。

そのときだった。

向かい側の斜面に生えた草が途切れているのが目に入った。

 

「ごめん、ロビンちゃん。ちょっと止まって!」

 

脇を登っていたチョッパーも同様に目を凝らすが、わからない。

「コックさん、とりあえず上がっちゃって。見てくるわ。」

スルスルとサンジを上まで届けたロビンは、向かい側に手と目を生やした。

「確かに不自然ね。

 土が抉れてるわ。

 まるで何か小さなものが滑り落ちたか・・・

 人が落ちるときに掴まったか・・・」

 

「決まりだな。行くか?」

「もう日が落ちるわ。残念だけど、明日にしましょう。」

 

(1/18.19分)

 

町外れの宿に戻った一行は早めの夕食をとり、

チョッパーとロビン、サンジとゾロの部屋へと引き上げた。

「いよいよ、見つかるな。

 待っててね~、アリシアちゃ~ん。」

「期待し過ぎるなよ。

 最悪でもルフィ達が男を連れて帰れば、はっきりするんだ。」

「てめぇだって、決まりだっつってたくせに。」

「てめぇは落ち込むだろうがよ。」

「へっ」

鼻で笑って、着替えを用意すると浴室へ向かう。

その後ろをゾロが従う。

「もしもし、ロロノアくん?なんでついて来んの?」

「風呂だろ?洗ってやる。」

「いらねーよ。」

 

しれっと聞き流して、服を脱ぎ出すゾロを横目で見て溜め息を吐く。

「やんねーぞ。」

「わかってるよ。

 おまえね、おれを何だと思ってるわけ?」

いや、そう思ってるし、と言わなかったのはサンジにしては上出来だ。

「そんな疲れた顔してるヤツを押し倒す気はねぇよ。」

「ふーん」

生返事を返しながら、そんな顔してるか?と鏡を覗き込む。

たしかに、腕を上げるのも億劫なほど、ダルい。

だが表情に出さないよう気をつけていたし、チョッパーには隠せたはずだった。

 

「昨日だって、おれは最後までするつもりは無かったんだぞ。」

「わかってるよ。」

それには触れないでくれ、と思いながら俯いてボタンを外す。

ドドドドドッと勢いよく湯を張る音がする。

 

ザッと体を流したゾロが湯船に入ると、

さほど大きくもない浴槽ではもう胸まで湯が届いている。

続いてサンジが湯船に足をつけると、溢れそうだ。

 

自分のそばに座らせようとゾロが手を掴むのを振り払う。

「やんねーんだから、触んなって。」

「なんでだよ。」

「なんででも。」

 

憮然として、差し向かいに座るサンジを見ていたゾロがニヤリと笑う。

「てめぇがしたくなるんだろ。」

ふーっと温かい湯を満喫していたサンジの顔がサッと朱に染まる。

「昨日だって、てめぇの方がもっともっとってすごかったもんな。」

「んなわけあるか!クソヤロー。」

「なんだよ、忘れたのか?

 欲しい欲しいって腰振ってたの誰だよ?」

「うるせー、うるせー、うるせー!」

「なぁ。だから触るなっつうんだろ?」

バシャンッ!ゾロの顔に大量の湯がぶっかけられる。

「そうだよ!悪ぃか!チキショー。」

極悪な顔で睨み付けているが、首まで真っ赤だ。

それを見て、ゾロが破顔する。

「悪ぃわけねーだろ。むしろ最高だ。

 まぁ、今日は仕方ねーな。背中と頭だけ洗ってやっから、前は自分で洗え。」

「おう・・・。」

 

本当に嬉しそうな顔で返されてしまうと、怒りも持続しない。

かといって、何だ、この羞恥プレイは。

昨日のことだって、覚えてるに決まってる。

ゾロは挿れないで終わらそうとしていたのに、そんなんじゃ終われなくて。

もっとって、欲しいって、しがみついてねだったんだ。 クソ。

そんなことを思い出しては顔の赤みは治まらない。

拗ねた顔でぼそぼそと返事をしながら、赤い目元で見上げるサンジには、

ゾロがその顔だけで反応しそうになるのを、グッと堪えているなんて気付いていない。

 

結局、腹が邪魔して屈みにくいサンジの 足の先から、

理由もない腕まで丁寧に洗い、髪の毛を乾かし、腕枕で寝かせた。

なんだかんだ、と幸せな恋人同士の夜は平和に更けていったのである。

 

(1/20分)

 

明け方から腹部が張るというサンジと、ゾロを宿に残し、

チョッパーとロビンは昨日の場所に向かった。

 

「おれが残った方が良いかな~。」

不安な顔で振り返るチョッパーだったが、送り出したのはサンジだった。

ひと月にはまだ日があるし、張る感覚があるだけで痛みはないし・・・と

模範的な妊婦生活を送っていただけに、全員 危機感を覚えるほどではなかったのだ。

 

「探すのにおめぇの鼻は必要だろ。

 アリシアちゃんを優先してくれ。

 マリモならおれを担いで走れるしよ。」

その言葉通り、数刻後に激痛が襲ったサンジをケットにくるみ、チョッパーを追うことになった。

 

「チョッパー!

 チョッパー!!いねぇのか!!」

ゾロの怒鳴り声を聞きつけ、チョッパーが崖の下から飛び出してきた。

「ゾロ!どうしたの!?

 うわ、サンジ!すごい脂汗だ、いてぇのか!」

「いや、今は少し治まってる。」

「波があるんだな。間隔は何分おき位だ?」

「あ?間隔?」

「ゾロ、次に激痛が来たら時間計ってて。もう産まれるのかも知れない・・・」

 

サンジが懐中時計をゾロに渡しながらチョッパーに訊ねる。

「見つかったのか?」

「うん、多分。今傷つけないように掘り出してるとこ。」

「そうか・・・」

 

現場に降りるとロビンが枯葉や土砂を掻き分けていた。

サンジを降ろしロビンの元へ向かうゾロをサンジが呼び止める。

「また、キタ・・・いてぇ・・・」

慌ててサンジを抱えなおし、時計を睨み続ける。

サンジの強張った体から力が抜けたのは、7分後だった。

 

それを聞いたチョッパーが頭を抱える。

「もう産まれようとしているんだ。でも、どうしたら良いんだよ!」

 

「チョッパー、アリシアちゃんから取り上げてやってくれ。

たのむ、早く。」

 

サンジから掛けられた声に、チョッパーがハッと顔を上げ、踵を返す。

「ゾロはそのままサンジが楽な姿勢になるようにしていて。  

 もっと間隔は短くなって、痛みも増すはずだ。

 急ぐから!

 サンジがんばってて!」

 

(1/21分)

 

「コックさん!いたわ・・・」

ロビンの言葉に弾かれたように、サンジが立ち上がる。

ゾロが伸ばした手を振り払うように遺体に近寄ると、フラフラと頽れた。

 

「アリシアちゃん・・・こんな姿になっちまって・・・」

 

傍らに跪いたサンジがアリシアの頬を撫で、腹部に手を乗せる。

 

「チョッパー、たのむ。

 手遅れにならないうちに。」

 

手遅れ?

疑問が浮かんだが、サンジがまた激痛の波にさらわれてしまった為、

疑問をぶつける相手を失い、手早く帝王切開の準備に入る。

 

野外でできる限りの消毒を施し、手早く切開した。

帝王切開の経験は少ない。

特にメリー号に乗ってからは、産婦人科の勉強が疎かになっていた。

それでも、見事な手際の良さで赤ん坊を取り上げた。

遺体に対する処置も丁寧で、起きていても痛みを感じないのではないか、と思えるほどだった。

 

 

「サンジ!生きてる!赤ちゃん生きてるぞぉっ!!!」

 

「間に合ったな・・・」

 

サンジの腹部が元通りにへこみ、糸が切れたように意識を手放した。  

 

(1/22分)  

 

「あーん、あーん」

弱々しい猫のような鳴き声を耳にし、サンジが目を醒ますと、傍らに赤ん坊が寝かされていた。

恐る恐る抱き上げたとき、チョッパーが部屋に入ってきた。

「サンジ!よかった~目、覚めたか!

 これ、あげてくれ。」

と哺乳瓶を手渡す。

「母乳、出ねぇもんな。ミルクもらってきたんだ。」

「あほ、出て堪るか。みんなは?」

「ルフィたちも帰ってきたぞ。

 ゾロたちは隣の部屋で男を見張ってる。

 ナミたちは、その子のお爺ちゃんとお婆ちゃんとこに行った。」

「アリシアちゃんは?」

「きれいにして、隣の部屋で寝かせてるよ。」

「そっか・・・

 この子、引き取ってくれるかな。」

「・・・」

「娘の子供だけど、娘を殺したヤツの子でもあるんだよな。」

「うん」

チョッパーが神妙な顔でうなずく。

「海賊船で育児は厳しいかな。」

「サンジ?」

「いや、なんでもねぇ。」

赤ん坊を抱いて、ミルクをやりながら微笑むサンジは神殿に飾られていた母子像のようだった。

 

 

ミルクを飲み干した赤ん坊をたてに抱っこし、背中を優しく叩く。

「けふ」というささやかなゲップとともに、少量のミルクをサンジの肩に戻してしまったが

構わずに「うし、上手、上手」と背を撫でてやる。

チョッパーに教わりながら、オムツを替えていると、

そこへ老夫婦を連れたナミが帰ってきた。

 

 

アリシアの両親はとても優しい人たちだった。

それまでに恋人があることなど聞いていなかった娘の腹部が突然膨らみ始めた驚愕、

島中が信仰している神殿の巫女の家系として、

相手について問い詰めてしまった経過などを語った。

たとえ父なし子でも自分たちが守る、と言えなかったことが

この惨劇を招いたと泣いた。

そして、男は警備隊に引渡し、娘の亡骸と忘れ形見を大事に抱えて帰って行った。

 

(1/23分)

その夜、シャワーを浴びたサンジが窓際に立って紫煙を燻らせていると

脇のベッドで寝転んでいたゾロが上体を起こし、サンジの腰を引き寄せた。

 

「まだ、どっかいてぇのか?」

 

「あ?もうどこも痛くねぇよ。」

灰皿にタバコを押し付けながら答える。

 

「じゃぁ、何でそんな顔してる。」

 

「なんだ、そりゃ。どんな顔してるよ。」

笑いながら、座椅子よろしく背後のゾロに凭れかかった。

 

「つめて!髪びしょびしょじゃねぇか。」

 

「ん?じゃ、拭いて。」

サンジがタオルを背後に放ると、 言い返しもせず、

渡されたタオルでサンジの髪を拭きながら「さびしいのか?」とゾロが訊ねる。

 

「いやぁ、清々してるぜ?

 タバコ吸えねぇし、腹は重てぇし、足元見えねぇし・・・」

清々しているとはとても思えない表情でつらつらと大変だった日々を連ねてみた。

 

タオルをサイドテーブルに放り投げ、足の間に座っているサンジのウェストに腕を回すと、

自身も凭れるためベッドヘッドまでずり上がる。

 

「ほんとにいたよな。」とゾロが呟きながらサンジの腹部を撫でると、

ゾロ座椅子に座り直し、肩に後頭部を乗せながら、サンジが答えた。

 

「あぁ、おめぇも触ったろ。蹴ってたよな。  

 ホントにおれん中で生きてた・・・アリシアちゃんの中にいたまんまじゃ、  

 一緒に死んじまうところを、栄養とか酸素とかをおれに繋いで、

 生きながらえてたんだそうだ。  

 どういう仕組みかわかんねぇけど。  

 巫女の力ったって、本来は少々のまじない程度らしい。

 レディは、母親はすげぇよ。」

 

くすりと思いだし笑いをしたサンジを、ゾロが聞きとがめると

「おめぇは優しくって気持ち悪かったなぁ」とニヤリと笑いかけた。

「言ってろ」

 

「甲斐甲斐しくってよぉ。足の爪まで切ってくれたもんな!

 おめぇは、ごくつぶしの甲斐性なしだと思ってたけどよ・・・

 案外良い亭主になれんのかもな。」

 

「わりぃな。孕ませてやれなくて。」

 

「ばか。逆だろ。

 問題あんのはおめぇじゃねぇ。」

 

うつむいてしまったサンジの顎を掴み、くるりと体を反転しながらベッドに縫い止める。

 

「良いか。どうでもいい女相手に良い亭主なんてやれねぇぞ。

 ふざけた事ぬかしたら叩っ斬るぞ。」

 

サンジは、物騒な言葉でもやもやを晴らしてくれる愛しい男を引き寄せ、

返答替わりにヘの字の口を自身のそれで塞いだ。

 

fin

昨日何があったか気になります?

イロモノ中のイロモノ サンジくんが妊婦姿でのHですから

迷う方はおやめくださいね。

あとで何を思われましても、「だから言ったじゃん」としか答えませんよ?

 

  ↓

 

本当に、いいの?

 

  ↓

 

 じゃ、どうぞ!