「サンジくん♪ 今日のおやつはチョコケーキ?」
「ごめんよ、ナミさん。ブランデーケーキを仕込んでるんだけど、それじゃダメかなぁ?」
「え! ううん!! フルーツたっぷりの? あれ 大好きよ、楽しみ~!」
「そう、良かった」
柔らかい笑みを湛えて、サンジが甲板を横切る。
ブランコを揺らすチョッパーの隣で、ルフィがビヨンビヨンと伸び縮みしていた。
「サーンジ~! 今日はチョコなんだろ!?」
「ん!! まだ匂いしてねーな! これからならおれも手伝うぞ!」
「はぁ? てめぇら 何言ってるんだ? チョコ関係を作る予定はないぜ」
「「ええっ~! うそだろお?」」
その声が聞こえていたのだろう階段ではウソップが唖然と口を開けていた。
「サンジ、今日はバレンタインだぞ?おれたち男子にとってチョコをもらうのがどれほど、大事か!」
「おー、そうだなー、おれもだ」
「あ……」
「ふん!」
スタスタとキッチンに向かうサンジの背中に、ウソップは追うことも声をかけることも出来なかった。
「かわいそう」
「ロビンちゃん……あー、うん。後で謝るよ。八つ当たりだ」
サンジの肩に咲いた手が金髪をよしよしと撫でる。
「かわいそうなのはあなたよ。でも、わかってるでしょう? あなたに女の子役を強いてるわけじゃないわ。」
言いふらしたわけでもないが、ゾロとの関係は周知の事実。サンジとて、それを揶揄されたとは思っていない。あくまでもコックとして。
しかし
「それでも、今日チョコ菓子を作る気にはなれなかったんだ。みんなが望んでるモノがわかってて作らないなんてね、コック失格だ」
自嘲気味に笑うサンジの頬をロビンの手が撫でる。
「そんなことないわ。あなたは最高のコックさん。ふふ、もう少し楽に生きれたらいいのに。」
向い合って立つ二人の間に、光がさす。ドアが開いた分だけ光が広がり、うっすらと舞う埃がきらきらと輝く。現れた男は陽光を一身に浴びていた。
「ナミは甲板かしら。おやつまで私も一緒にいるわ」
おやつまでまだ間がある。それまで自分たちに気を回すな、と年長者らしい気遣いを見せてロビンが去ると、光の帯はまた、消えた。
「どうした。水か?」
「これ、やる」
ゾロが腹巻から取り出したのは、シルバーとピンクの包装紙に赤いリボン、小さな造花のコサージュまでついた、それはそれはかわいらしい小さな箱だった。
「ゾロ…」
「あ? バレンタインだろ? 今日じゃなかったか?」
「今日だよ。おまえ、バレンタインなんて知ってたんだな」
「だったら早く受け取れ。ふん、こないだの島でバザール中大騒ぎだったじゃねぇか」
「だから?」
「なにが」
「だから、おれに用意してくれたわけ?」
「てめぇが喜ぶかと思ったんだよ。くそ、いらねーなら、あいつらにやれ」
「いらねーわけねーだろうが!」
サンジは、ゾロの手ごとプレゼントを両手で包み込むと体当たりするように、ゾロの肩に顔を埋めた。
―――ゾロにチョコを渡したい、そう思っていたんだ。
でも、抱き合う時にはそういう役割だからって、ゾロのオンナになったわけじゃない、と過剰に意識して…。
いろんな島のチョコレート有名店がこぞってバザールに出店していた。あそこでゾロがおれのためにチョコを買ってくれたんだ。恥ずかしかっただろう、女の子がひしめく売り場でどんな顔して買ったんだ。
ああ、男らしいな。チョコをくれたゾロの方がよっぽど。おれはこんなにかっこわりぃや。
「ゾロ…ありがと、すげー嬉しい」
肩にサンジの重みと暖かさを感じているうちに、じんわりと濡れた感触が広がる。それを感じたゾロは空いている片手で細い腰を抱き寄せる。
「また、くだんねーこと考えてたんだろ」
「くだんなくねえ」
「おれはてめえを女扱いしたことも、女代りにしたこともねえぞ」
「わかってる」
サンジが顔を上げ、自然と二人の唇が重なった。
啄ばむように、探り合うように、貪るように、何度も何度も抱き合い、キスを交わす。相手の背中を撫でるように手が動く、そのサンジの手にはしっかりとチョコレートの箱が握りしめられていた。
額を合わせて、互いの息を感じる距離でサンジが囁く。
「おれも、おまえにチョコやりたかったな」
「今から作ってくれよ」
「こないだ意地になってたから、チョコ仕入れてねー」
「お前ならなんとかなんだろ?」
「ムチャ言うな」
「そのチョコ使ってもいいぞ?」
「それは……いやだ」
サンジの顔に笑みが広がった。
その夜、夕食後にそっと出されたフォンダンショコラに、男たちは感激の涙を流した。
チョッパー用のココアと、ナミお気に入りのカカオリキュールが減っているのはヒミツにしておこう。
fin
すっごい久々にエロ無しを書きました。
時間かかったー。
エロだけ、を最近書いたんですけど、だいたいね、この倍の文字数を約半分の時間で書いてますwwww
ホント頭おかしいよ!