ドアの開閉音にゾロがふと目を覚ます。辺りを見回すと、夕食後のラウンジ。
暖炉の前ではチョッパーとルフィがウィンリーと遊んでいる。
傍らには道具箱を広げるウソップ。
少し離れてソファに座る夫人は、娘の方を向いているようだが、視線の先はウソップだ。
テーブルで地図を広げるナミと、その脇に座っているロビンはまた古そうな分厚い本を読んでいる。
2人の前に置かれたカップから湯気が立ち昇っているが、それを淹れたであろう男の姿がない。
「コックはどうした?」
誰に、というわけでもなく呟くと、聞きとがめたナミが答えをくれた。
「生徒さんち。オーブンの調子を見てあげるんですって。」
「こんな時間にか。」
「仕方ないでしょ。昼間はレッスンがあるし、うちには夕飯終わらないとおさまらないヤツがいるし。」
「ふん」
ムカムカする。
誤解していたのは悪かったと思う。
だが、それも謝って済んだと思った途端にあっちが切れたのだ。
すぐに屋敷中探したが見つからず、そのまま今日一日避けられた。
サンジが何を考えているのかわからない。
キッチンに入ると、いつものように一本用意してある自分用の酒と小鉢。
こんなとこに気遣いを見せるなら、なぜ逃げるのか。
踵を返して玄関に向かう。
「ちょっと!ゾロどこ行く気?」
背中に届くナミの声を無視して外に出た。
サンジがどこに行ったかなんてわからない。しかし、じっとしていられなかった。
サンジは、城の喫茶室を手伝う予定の生徒オリビエが、試作品を持ってきて焼き目が一定にならないと言うので、オーブンを見てあげることになった。
出航した後の頼みの綱が不調ではまずい。家で作ったものを納品するのがメインだから、家族持ちの彼女も気軽に引き受けてくれたのだ。城のキッチンに籠って調理となると話も変わる。
オーブンは生き物のようにモノによって調子が違うから、火加減のくせを見抜いて使いこなしてやるのが肝要だ。火の調子は割と簡単に調整できた。しかし、内部にトラブルがあるようで、途中で開けられないシュー皮類は不安な状態だ。一度ウソップに見てもらおう、そんなことが決まった頃、彼女の夫も帰宅し、試作したケーク・サレを食べながらの酒宴となった。
ほろ酔い気分でオリビエ家を辞し、山道を登るのも億劫なサンジはメリー号に向かうことにした。
一人になると嫌でも頭を占めるのは一人の男のことだ。
おれが浮気していると思ったと言っていた。
そんなに軽くない、とは思ったが、嬉しかったのも事実だ。
なのに、おれから離れることを考えていたと分かったら、泣きそうな気分になった。
ヤツが言うようにおれのためなんだろう、おれが女好きだから・・・・・
くそっ!
そんなことは最初からわかってるじゃねぇか、なのに、ホモになんかなりたかねぇって言ってんのに、口説いて口説いて口説き落としたのはおめぇじゃないか。
今さら、てめぇは離れられんのかよ!
口をついて出た言葉は、全身全霊で欲しがれ、って。
バカか。
・・・・・・結局、おれは拗ねてるだけじゃねぇか。
もしおれが浮気したって、取り戻すくらいのことしてみせてほしかったんだ、たとえ本気になったら殺されるくらい想われてるって思ってたんだ・・・・・ゾロ!
ゾロ、ゾロ、ゾロォッ・・・・・・
おれは、いつでも、てめぇに恋い焦がれられて いたいんだ・・・