ゾロが足音を殺してベッドに近づく。
血の気の無い白い顔はピクリともせず、気配に敏い男が眠り続けていることが、赦されているようで嬉しくなるが。
(違う、それだけ消耗してるってことだろ。)
高揚する気分を自ら断罪した。
傍らに据えられた椅子に腰掛け、いつまでもその顔を見つめていた。
強さを求めて旅に出た。
体の強さだけじゃない。どんなときも冷静に対処できる心だって鍛えてきたつもりだった。
なのに、サンジと出会ってから、簡単に揺らぐ自分を思う。
売られたケンカも買う、自ら挑発することも多々ある。
嬉しそうに他のヤツを見てるのはムカつくし、自分を見たらムラムラする。
サンジの一挙手一投足に動じる自分に対し、サンジはいつだってクールなもんだ。
瞬間湯沸かし器のごとく、簡単にケンカにはなるが、それだっておやつだ、メシだってときにはすぅっとやめちまう。単なる暇つぶしってことだろう。
いつだって、サンジの手のひらの上であしらわれているようだ。
どれくらい経ったころだろう、金のまつ毛がゆっくりと開き、青い瞳がゾロを捉えた。
痛々しく眉根が寄せられる。
「なに、てめぇ。まだ足んねぇってのかよ。」
「サンジ」
「欲しがれって言ったのはおれだけどな。てめぇが欲しいのが…あんなんだとは思わなかったぜ。金輪際、ごめんだ。出てけ。」
再びを目を瞑ると、布団が顔の半ばを覆う。
「我慢できなかった。悪かった。断じて、ああいうことを欲してるわけじゃねぇ!
…ただ、いつでも、 てめぇに転がされてるみてぇで、堪らなくなっちまった。」
「もう一度聞く。てめぇの欲しいのはなんだ?」
「サンジ。おまえだ。」
「心か?身体か?」
「両方だ。当り前だろう!」
「どっちか、つったら?」
「…心だ。あんなのが欲しかったわけじゃねぇんだ。」
くるりと布団の中で背を向ける。
失敗したか、立ち上がろうとしたゾロの目前にベッドヘッドに置かれていた薬が飛んできた。
もぞもぞと、布団が動き、裾からズボンと血の滲む下着が落とされる。
「てめぇがつけた傷だ、てめぇが癒せるよな?」
かかった声に布団をめくると、白い双丘が現れた。
ごくり、と唾を飲む。
そのすぐ下には、太ももを横切る擦過傷。さらに足首の縄目は血が滲んでいる。
足先を持ち上げ、ゆっくりと薬を塗り広げていく。
双丘に手をかけると、サンジがビクリと身が竦ませた。
ひどい裂傷だった。恐る恐る差し入れたところは、赤く腫れあがりグジュグジュとした傷口そのものだった。
感じるところには触れないよう気を付けながら、薬を塗り終え衣服を整えた。
「合格、だな。」
ふわんとサンジの顏が綻んだ。