「あら。コックさん。よくなったみたいね。」
階段を降り始めたサンジにロビンの声がかかる。まだ互いの姿は見えないのに、よほど心配だったのだろう。
「ありがとう、ロビンちゃん。心配かけてごめんよぉぉ!」
踊るように階段を駆け下りたサンジを、ナミも立ち上がって迎える。
「サンジくん!」
「ナミさん。」
「ずっと、顔色悪くて、挙句にあんな怪我してきて!もう!」
「うん。ごめんねぇぇぇぇ~♡ありがとう~ やっぱりおれ、愛されてるぅぅぅ。」
今朝の不調だけじゃない、明らかにサンジを包む雰囲気が変わっていた。
「ハラ、減ったぞ!」
ルフィが片手を掲げる。
その手にパチンとサンジの手が合わさったとき、ウソップとチョッパー、少し遅れてゾロも入ってきた。
チョッパーが足元にまといつき、ウソップが肩をパンッと叩く、その歓迎の様子に居心地の悪さを感じたゾロがすり抜けるように奥へ歩を進めた。
「あっせ、くせぇっ!!」
背中に衝撃を受けたゾロが翻って、サンジの胸ぐらを掴み上げる。
ゴリゴリと額を合わせ、睨み合う二人を見て、ナミがふきだした。
「あははっ!やぁだ~
あんたたちのケンカ久しぶりでホッとしちゃう!」
気まずい空気を持ち込む前にサンジがわだかまりを吹きとばした。
雰囲気を大事にする人間なのだ。普通なら、自分がギスギスした空気の中心になることを許しはしない。
こんな小さな気遣いにも、今までの調子の悪さがうかがえる。
そして、まだ身体はキツイだろうに、自分との間のわだかまりがなくなれば浮上する、それを知って嬉しくないわけがない。ゾロの口角が上がる。
「ナミすわんに笑いかけられたからって、ニヤニヤしてんじゃねぇよ!エロマリモ!」
「誰がだ!エロはてめぇだろうが!このエロコック!ニヤニヤ通り越し原型留めない顔になってるくせによぉっ!」
「むっつり剣士!」
「すけべまゆ毛!」
再びのケンカ勃発を止めたのは、ウィンリィだった。
「パンケーキが焼けましたよぉっ!」
「朝と同じで申し訳ないんですけど…」
恐縮する母子が食卓を整える間にキッチンに向かったサンジが、すぐ両手と頭上に白い皿を乗せて現れた。
それぞれにはふっくらとした、チーズオムレツがほかほかと湯気を立てている。
「ほい。サイドメニューの追加、だ。」
「サンジさん、すみません。」
「なんの!こいつらの食欲 尋常じゃないからね。普通のお客さん相手なら十分こなしてるよ!」
メニューの少なさは泊り客相手じゃなければ問題にならない。
味も スピードも、看板を上げられるだけのレベルに達していた。
「午後には、お菓子の試食も持ってきてくださるそうです。」
「そうか!じゃぁ、おやつもおれはお客さんだ。楽しみにしてます、マダム」
優雅に腰を折るサンジの腕をウィンリーがひっぱる。
「サンちゃん!あたしは?」
「もちろん!楽しみにしてますよ?リトルプリンセス」
ひざまずいて、両手を取ったサンジはその甲にくちづける真似をする。
きゃぁ、と歓声を上げたウィンリーを抱き上げた。
「はい、召し上がれの号令をどうぞ?姫。」
「みなさん どうぞ めしあがれ!」
「いっただきまーす!!」