話し合いの結果、親子の食事もサンジが作ることになった。
宿泊費は、ホテルの修繕、蔦の除去、喫茶店として稼働するための労働力、そして食費全般で支払う。
物々交換のような取引となった。
しかし、大食いの貧乏海賊団のこと、食費で済んだと喜んではいられない。まずは手分けして山での食糧調達が必須だ。
サンジは一人、船へ行っていた。残りわずかな貯蔵品を運ぶためだ。
港から市街地を抜け、紅葉のトンネルで彩られたなだらかな坂を上るとホテルが見えてくる。
街の喧騒からは離れているが、不便なほど奥地でもなく、廃れてしまうには惜しい立地だ。
ホテルに向かって斜めに走る道の上、裏手にあるはずの山が並んで見える。
沈もうとしている夕陽に照らされて、紅葉した山が更に真っ赤に染まる。
「夕暮れには山が燃える。」
いつかゾロから聞いた故郷の光景が頭に浮かぶ。
あのときは、大げさな、と笑ったが。
確かに燃えている。
山自体が赤く色づいているのに、更にゆらゆらと赤い陽炎が立ち昇るように山を包んでいる。
今見ている山の中に居る男に呼びかける。
(ゾロ、こういうことか。すげーな。)
その時、すぐ脇の木が揺れた。
「呼んだか?」
唖然と慣れた気配を見つめる。
「迷子剣豪。てめぇはあの湖の向こうの山に居るはずだぜ?」
「チョッパーが居なくなりやがってよ、探してやってんだ。」
「絶対、立場逆だからな。あーぁ、チョッパーかわいそうに。」
「うろせーな。今、呼んだだろ?なんだ?」
「呼んでねーよ。」声に出しては、と思いながら、荷物を降ろしチョイチョイとゾロを招く。
近づいたゾロも獲物を降ろし、背後からサンジを抱きしめながら同じ方向を見る。
「お!すげーな。懐かしい風景だ。」
振り向こうとしたサンジを留める。「もう少し見てろ。」
その時、揺らめく炎がしゅんと消え、紅色から紫へのグラデーションの空に黒々とした山が浮かび上がった。
思わず詰めていた息を吐く。
「スペクタクルショーだな。」
「しかも、日替わりだぜ?山も良いかなって思ったか?」
「あ?別に山嫌いじゃないぜ?」
「そうか?長く島にいるときは用事なくても船に戻ってるだろ?」
「ありゃぁ、揺れなさすぎて落ち着かない、っつうか、酔いそうになるんだよな。
てめぇが気付いてるとは思わなかったぜ。
なんだよ。おれの動向がそんなに気になるか?てめぇ、おれんこと大好きな?」
うへへと笑うサンジをギューと抱きしめる。
「あー、そうだな。だから、今晩はてめぇが酔わないように協力してやろう。」
「ん?」
「いっぱい、揺らしてやるな?」
ボンとサンジが首まで赤く染める。
「エロおやじ。せっかくの雰囲気を壊すな。」
「壊れてない、こわれてない。」
赤く染まった耳をぱくんと咥え、そのまま喋られると、ゾクゾクと背筋が痺れて、腹部で組まれたゾロの手にしがみつく。やばい、と思ったとき、
ギュルギュルギュル――――――となんとも切ない腹の虫が、鳴った。
「ぷっ!あっはっはっはは――!戻ろうぜ、夕飯だ。」
「くそ。損した。あと15分鳴らなきゃ・・・」
「こんなとこで15分も何するつもりだったんだよ。ばーか。」
懐から煙草を取出し、指で弄びながら、「こんだけな。」とつぶやく。
腕の中で身体を捩り、ふてくされた尖った唇にちゅっと接吻けた。