ヒミツの二人 2

 

「ちっ、寝てんな。」

 

ゾロの舌打ちで目が覚めた。

まだ、目も開けられないが、頭の隅っこが覚醒した、そんな感じ。

飲みすぎだな、こりゃ。

今、何時頃なんだろう・・・

 

 

 「サンジ、溺れるぞ。」

またゾロの声。

風呂場かな、反響してる。

えっ!?

 名前で呼んでんのなんて珍しいんじゃねぇ?

「弱ぇくせに飲みすぎだ。」

いやいや サンジ弱くはねぇよ。

お前とナミががおかしいんだよ。

あぁ、ツッコミたいのに、起き上がれない~

 

「ほれ、起きろって。 

 グランドライン平気で泳ぐヤツが風呂で溺死したら笑うぞ。」

・・・確かに・・・ 葬式、大爆笑だな。

 

「こら!やめろ、エロコック!!

 おれまで濡れんだろうが!!」

暴れてんのか?

手伝った方が良いのか?

出てきた。

 

体はそのままに、なんとか目だけ開けてみる。

あれ、おれにも毛布がかかってる。

冷房効いてるもんな。ありがてぇ。

 

 

バスローブにくるまれたサンジがゾロに抱えられている。

普段、サンジは誰より早く起きて、誰より遅く寝るから、寝顔を見ることはあまりない。

それにしたって、そこまで無防備に他人に預けきってる姿ってのはレアなんじゃないだろうか。

 

ゾロがサンジをベッドに横たえ、頭をなでている。

上掛けをサンジにかけてやり、屈む。

サンジの頭がある位置に、ゾロの頭が

重なる。

 

 

ええええええっ―――――――

 

キスしてる、よな!?

まじ?

 

 

なんで!?

 

 

まぢ?!?!?

 

ゾロがこちらに向き直った。

「悪かったな、起こしたか?」

 

「い、いや、その自然に目が覚めただけで・・・ゴホッ」

「水ならそこにあるぞ。」

示されたテーブルから水差しを取り、グラスに注ぐ。

 

おれは何を言えば良いんだろう。

いつもならペラペラと動く舌が喉に張り付いたように ちっとも動いてくれない。

 

気づいてない振り、はムリだなぁ。

さっきのおれが挙動不審過ぎる。

 

はぁ~っ

 

「この部屋は  

 

 お前の部屋でもあるんだな。」

 

「そうだ。」

ニッと口の端を上げて、ゾロが即答する。

 

「おれ、今からでも船戻るとか、した方が良いんじゃねぇか?」

「本気でてめぇを泊めたくなかったら、そう言ったかもな。 

 酒何本か返品するとか、金を貸してやる方法なんざ、いくらでもあった。

 

 だが、 

 コックはウソップなら良いっつったろ。」

 

散々迷ったあと、『おれだし』みたいなことを言ってたな、確か。

 

このことは二人にとって最上級の秘密なんだ、きっと。

 

それをおれにはバレても良い、って思ってくれたってことか。

 

なんって、信頼。

応えなきゃ、男じゃねぇ。

 

おれがそんなことを考えてた間をどう捉えたんだろう。ゾロが、「気持ち悪ぃか?」と聞いてきた。

 

「てめぇがイヤなら他の部屋借りてきてやる。」

 

「イヤじゃねぇよ!」

 

「男が、男のケツに突っ込んで喜んでんだぜ。」

 

「やめろよ、わざと・・・そんな風に言うなよ。  

 

 お前はサンジが良くて、サンジもお前が良かったってだけのことだろ。 

 そりゃ、全然気付かなかったから、

 ちっとビックリしたけどさ。  

 

 でも、おれ邪魔じゃねぇ? 

 その、貴重な時間なワケだろ。」

 

「てめぇが居ても、居なくても、何にもしねぇよ。 

 心配すんな。」

 

そーなんだ?

 

「明日、朝市が結構早いんだと。出航したら暫くは、買い込んだ食材の処理でコックが忙しいしな。

 だったら、 

 今日は、ゆっくり寝かしてやりてぇ。」

 

いつもと何ら変わらない無表情なのに、ひどく穏やかな雰囲気で説明するゾロを見て、

すっげー素直に良かったなーって思った。

 

「おれさ、 

 お前が夢叶えた後って、どうすんのかなーって思ってたんだよ。

 大剣豪になったら、ボケちまいそ」「ああっ!?」

 

遮られた、こえーよ。

そこで切ったら悪口みてーじゃんよ。

 

「いや、なんつーの? 

 お前の道って孤独な感じじゃん。 

 他にはなーんも執着してなさそうだしさ。」

怪訝な顔をされている。

悪口じゃないのは伝わったけど、どう反応して良いかわかんないってとこか。

まぁ、そうだよな。

 

「だからさ、サンジで良かったよな。 

 どんな道でもさ 

 あいつなら、一緒に歩けるじゃん。  

 

 かよわい女の子じゃぁ、連れてくのも、待たせるのも、ちっとなぁ~。」

 

「ウソップ」

 

真剣な顔、なんかマズいこと言ったか?

「な、な~んだよ~」

 

「ありがとう」

 

うわ、照れる。

おれら、みんな口悪いから、こんなちゃんとしたお礼って久々に聞くぜ。

 

「なんだよ、別に何もしてねーぞ。」

 

 

「長っ鼻~」

お、サンジだ。起きてたのか。

「話してるとこ、悪ぃんだけど」

「てめぇにだけ断ってんな」とゾロ。

「これ、やっから」

バフッ

枕が飛んできた。

 

「そっちのくんね?」

そっちって・・・

あ、そっか

「どっから聞いてたんだか」と照れ隠しか、ぼやいてるゾロに言ってやる。

 

「我らが一流シェフが添い寝をご所望だぜ。」

 

まだ飲んでんのに、とか

ったく、ガキかとか

ブチブチ言いながらも「いそいそ」って感じなゾロが明かりを消してベッドに入る。

サンジがすり寄って行くのが見えて、おれは慌てて目線を逸らす。

毛布を顔まで引き上げて目を瞑る。

 

なんつーか、平和だよなー

大概、兄ちゃん振ってるサンジにあんなかわいいとこがあるなんて

 

くくくっ

 

 

いいなぁ~

おれもカヤに会いたいな~

カヤはおれのことどう思ってんのかな~

・・・

・・

ぎゃぁ~~~~~~っ!!!!

 

ドカッ

 

バーーーッン

ガチャガチャガチャ・・・

 

カヤとの良い夢を

引き裂くような、いや、割と野太い絶叫で中断される。

 

あぁ

良い夢だったのに

 

ベッドの上には、

口を魚のようにパクパクさせながら、

サンジが真っ赤になってプルプルと震えている。

 

蹴られたゾロはキッチンまで吹っ飛んでいる。

「起き抜けに何すんだ! 

 アホダーツ!!」

「淡水生物のクセにベッドで寝てんじゃねぇっ!!!」

「てめぇがねだっ

「わーわーわーわーわー!!」

 

アホだなぁ、こいつら

でも、おれがいるせいなんだろうなー、助けてやるか。

「あの、サンジくん? 

 朝市は?」

 

パッとこっちを向いたサンジの顔色がスーッと白くなる。

おもしれぇ

 

ダダッと浴室に駆け込み、30秒後に出てきたときには髪もスーツもいつも通りだ。

 

「おい、ウソップ 

 おれぁ先に行く。残った酒と、そっちの瓶と、荷物持ち連れて八百屋に来てくれ。

 じゃーな!」

シュタッと片手を上げて飛んでいくサンジを見ながら「竜巻か」と

ゾロが酒瓶をキュポンと開けながら言う。

 

台風一過は言うけど、竜巻一過?あるのか?わからん。

 

「残った酒持って来いって言ってたぞ。」

 

「残んねーんじゃね?」

きみが今飲んでるからね。

 

さぁ サンジを追いかけよう。

おれは何も変えないよ?

お前らも変わんねーだろ?

だけど、二人の姿が見えなくても、探しには行かねーよ!

fin