その日、麦わらの一味は海軍もいない小さな島へ寄港した。
ログが溜まるまで3日間、船は目立たない入江に隠し、全員上陸することになった。
そして、山側にある遺跡目当ての観光客を当て込んで、小さなカジノが建てられていると知った
ナミの鶴の一声で、全員完全自由行動として解散したのだった。
と言っても、市場のあるのは小さな港町。
山側へ向かったナミ、ロビン、チョッパーはともかく、店を出ればバッタリ、角を曲がればバッタリ…
を繰り返し、日暮れ時にはルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップが揃っていた。
「で、なーんでいなくなるかな、メシって言い出した張本人が。」
サンジがイライラとタバコを噛みしめているのを見て、なだめるように話しかける。
「昼間はよく会ったんだけどなぁ~ ゾロもいないぜ」
はぁ~っと大きなため息をついて、サンジが振り返る。
「ファンタジスタだからな。もぅ、ほっとけ。その辺入ろうぜ」
サンジがフラッと店に入っていく。
サンジが選ぶ店は間違いなく、安くて美味いので、看板も見ずに後をついて行った。
普段なら、外の店であっても、食べ物の減り具合を見ながら追加注文をしたり、
女達に酒を注いだりと、かいがいしく立ち働くサンジと、
二人でゆっくり喋りながらメシを食うのは初めてだったが、非常に楽しかった。
食って、飲んで、さすがに長居し過ぎかと店を出たものの、
別れ難かったおれはもう一軒行かないか、と誘ったのだ。
が、サンジは
「バカ言っちゃいけねぇ、大人の時間だぜ。レッツナンパだぁ~」
と夜の町へ消えて行きやがった。
一人でさらに飲む程酒好きではないおれは手頃な宿を見つけ、とりあえず一泊を頼んだ。
明日の買い物が済んだら、山に向かってもいいしな。
翌日市場を回っていたおれの視界に緑頭がよぎった。
あ ゾロだ。
迷って山まで行ったかと思ったぞ、町ん中にいたんだなー。
ん?誰かとしゃべってる?
え!?
まさかゾロもナンパ?
いやタイプじゃないよな、じゃ逆ナン?
不審に思いつつ、近づくと下にいた金髪が立ち上がった。
あ サンジだ。
あの肩に積み上がった荷物はサンジの買い出しか!!
捕獲されて手伝わされてるんだな!
クルッと回れ右する。
見つかったら否応なく荷物持ち決定だ。
許せ、サンジ、ゾロ。
おれは昨日下見した店に注文品を取りに行かなきゃなんねーんだ。手伝えん!
バビュンと音がしそうな程のスピードで逃げ出し、目当ての店に飛び込む。
買い出しが終わったおれは、昼飯を食いに食堂を選ぶ。
入り口のメニューを見て値段をチェックし、昨日サンジに教えてもらった通り、食堂の裏口も覗く。
すると、見たくないもんを見つけてしまった・・・・・・
チンピラが三人、子供を囲んでいる。
町ん中のいざこざによそ者が首を突っ込んじゃいけねぇ。
もし この一回を助けてやれても、旅立ってから報復があるかもしれないから。
もし、やるなら相手を壊滅させる位じゃなきゃいけねぇ。
が、子供なんだよ。
しかも、怯えた目がおれを見てるよ・・・・。
「やいやいやい、おめぇら。
なんだ、寄ってたかって!
相手はチビじゃねぇか!」
「なんだ、てめぇ
よそ者は引っ込んでな。
ケガすっぜ。」
「おれは・・・海の勇者!」
ダメだ、いくらハッタリかましても聞いちゃくれねー。
こうなったら、金で解決だ!
財布ごと放り出す。
「足りねーなー」
!!!!!!!!!
ドガッ バキッ ぐぇっ
ゴミ捨て場にぶん投げられたおれの後ろで、壮絶な音がする・・・。
ズボッ
飛び出していた足を片手でつかみ上げられる。
「あ~にやってんの、お前」
「サ~ン~ジ~」
「寄るな、生ゴミめ。」
「ひでぇ」
「・・・・・・生ゴミまみれめ。」
それでフォローしたつもりか?
「おい、逃がしていいのか。」
あ、ゾロだ。そういや一緒だったよな。
「えと、チビっ子は?」
「おれらがこの道覗いたときに飛び出してったぞ。」
「そか、逃げたか。
良かった。」
ゾロは肩の上にたくさんの酒瓶が覗く木箱を担いだままだ。
やっぱ人外だよな・・・。
「お前は無事か?チョッパー探すか?」
サンジも片手に荷物を抱えたままだ・・・。
仲間二人が片手でやっつける相手にコテンパンなんて、ホントに情けない。
いや、おれは普通なんだ。コイツらがおかしいんだ!!
どよーんとした気分のまま、さらに落ち込む事実に気づく。
「あ、財布・・・」
「はぁっ!?
盗られてんのかよ!?」
「逃がしちまったぞ。」
「やべー、今日の宿も無いんだよ。
サンジんとこ、泊めてくれよ~」
「ん、いや・・・
ちょっと待て。
おい、ゾロ、金は?」
「刀の研ぎ代払ったら無くなるな。てめぇは。」
「・・・酒買いすぎたな。」
沈黙
「なぁ、床で良いんだよ。頼むよ~」
「だとよ。」
「んー。」
サンジがガリガリと頭をかいている。
落ち込むなぁ・・・夕べはすげー楽しかったのに、そんなにイヤかよ。
「よし、わかった。ウソップだしな、来い!!」
サンジの宿は広く、キッチンまでついていた。
バ~ンとドデカいWベッドを見て、ハッとする。
そうか、女の子連れ込むつもりだったのか。
そりゃ イヤがるよな~
「おい、長っ鼻。メシは?」
「あ、まだ。」
「よし。
じゃ、なんか作ってやっから、その間に風呂入れ。
着替えはあんだろ?」
女の子とのための部屋か~と思うと落ち着かなくて、ガシガシと大慌てで洗って風呂を出た。
ドデカいベッドにドデーンと横になっているゾロを見てギョッとする。
そりゃ やべーだろ。
またサンジに蹴られっぞ。
「おい、ゾロ
起きとけよ、まじぃだろ。」
「あ?何が。」
ほんとデリカシーってもんが無いよな。
「なぁ、やっぱさぁ
ゾロんとこに泊めてくんねーか?」
何がおかしいのか、くくっと笑いながら、キッチンに向かって声をかけている。
「おい、コック。
鼻が、おれんとこに泊まるってよ。」
「へー、あっそ。」
サンジの声にも笑いが含まれているのは奇妙だが、ともかく不愉快でもなく了解したらしい。
ヤレヤレ。
早朝の朝市からブラブラしてたし、思いがけない乱闘はあるし、疲れたなぁ。
キッチンからトントンと包丁の音、クツクツと鍋の音、おれの好きなスパイシーな香り・・・
いつの間にか沈みこんだソファで、おれは意識を手放していた。
カチャカチャ コトン
ハッと目を開けると、目の前にサンジのうまそうな料理が並んでいた。
驚いたことに、キッチンと往復しながら運んでいるのはゾロだった。
ふわんとゾロからシャンプーの香り。
あれ?ゾロも風呂入ったのか?
汚れる程苦戦してなかったよな。
あ、でもこの島暑ぃもんな~。
「お、目ぇ覚めたか。
そろそろ、声かけようと思ってた。」
本人から声をかけられ、質問のタイミングを失った。
そのとき、エプロンを外しながらサンジも部屋に入って来た。
「待たせたな、食おーぜ。」
昨日のメシ屋で食べたこの島の特産品なんかが、すでにアレンジされて食卓にのぼっている。
さっすがプロっつうか、一流って自称するだけあるよな。
「今日のテーマは『昼間っからノンダクレ』だからな、どんどん飲めよ。」
そうだったんだ。
船用の買い出しじゃないんだ、その酒の山。
そこまで言われりゃ、遠慮するわけはなく、ガンガン飲んだ。
んで、美味いのは明日買い込むそうで、空瓶を避けておく。
これはナミが好きそうだ、これを牛乳で割ってやったらチョッパーもイケるんじゃないか、と
クルーの好みを考えながらの酒宴はこれまた非常に楽しかった。
ふと窓に目を向けると、すっかり日は沈み、かなり暗くなっていた。
これ以上飲んでからの移動はキツい。
「ゾロ、お前の宿は遠いのか?
そろそろ移った方が良いんじゃねぇか?」
「おれもここだ。」
へ、この宿なんだ。 じゃぁ、サンジが出るときまで居て良いのかぁ。
ホッとしたおれは再び意識を手放したらしい・・・