慟哭Z 9

早朝に、次の島についた。

港から見ただけでもわかるほど活気にあふれた町で、おりしも朝市が開かれているようだった。

店の軒先から溢れんばかりに商品が並んでいる。

それだけじゃなく、道に真ん中にもテントが連なっていて、買い食いしながら店々を覗く人で大混雑だ。

停泊作業もそこそこに、全員そわそわと町へと降りて行った。

 

おれも例外ではなく、サンジと同行しようとしたのだが、こんな混んだ町で迷子を捜すのは大変だと、体よく追い払われた。

それが本心じゃないのなら、ナミの「船番はあんたね」なんて言葉も、サンジの迷子扱いも軽く無視するのだが、つき物が落ちたような顔で

晴れ晴れと笑うサンジが待っていろと言うなら、それに従ってやってもいいと思った。

 

あれから、空が白むまでセックスをした。

境い目がわからなくなるような錯覚に陥るほど、溶けるほどくっついて、二人の体温がすっかり同じになるのは心地よかった。


なんで、突然泣いたのか・・・ 

聞いて驚いた。サンジがおれの形になることを厭ったというのだ、おれが。


人間の造形がそんな簡単に変わるなんて、信じられないとは思う。

そういう軽口だったんじゃないのか、そんな言葉を真に受けて、悩むなんてアホなこった。

そもそも、悩む前に本人に聞きゃ良いじゃねえか。

めんどくさい、と正直、思う。

ややこしい、わかりにくい男だと。

だが、それを超えて愛おしいと思ってしまうんだから、仕方ない。

 

攻略してやるさ。

おまえが笑っていられるように。

愛されてみたかったと儚げに微笑んだおまえが、愛されていると自信に満ちて破顔できるように。

 

ぴよぴよと金色の意識が近づいてくる。

 

「ゾーロー!起きてっか? 運ぶの手伝え!すっげえいい酒も手に入ったぞ~!」

船縁から波止場を覗くと、どこから借りてきたのかリヤカーに食材を山と積んで、サンジが笑っていた。

 

笑っていた。

 

fin