魚の見る夢 1

「うおおお!見ろよ!すっげーキレイな魚だぁ!」

呑気なライオンのピークヘッドを飛び越えるようにジャンプした魚を見上げ、ルフィが大声を張り上げた。

つられて見上げたナミもきゃぁ〜♪と歓声をあげ、両隣のロビンとサンジが絶句する。

「今のは……コバルトスズメだ……」

「すずめ?随分可愛らしい名前なのね。」

「そうだよ、ナミさん。可愛い小さな魚のはずなんだ!」

「え?だって……」

「コバルトスズメは3〜4cm程度の熱帯魚で、家庭で観賞魚としてもよく飼われているものよ。飛び上がったとしても、この船を越えるなんてありえないサイズ。」

再び水しぶきが上がった。

「うっひょー!今度はオレンジと黒のシマシマかぁ!」

「あれは、私も知ってるわよ!カクレクマノミ。あんなでかくてどこに隠れるって言うのよおおおお!」

「おい!ウソップ!釣り竿を上げろ!今釣れてるやつも放すんだ!」

サンジが叫び、事態を把握したナミが手すりから身を乗り出し、水面をみつめる。

船の周りを取り巻く潮の色がいつの間にか毒々しい赤味を帯びていた。

並んで海面を見下ろしたサンジが「赤潮じゃなさそうだ。くそっ、いつのまに。」小さく毒づいた。

「フランキー!コーラはある?風来・バーストで潮の切れ目まで飛ぶわよ!」

「オッケーイ!スーパー任せとけ〜!」

 

 

ひとまず、何事も無いまま危難は去った。

不思議な色味の潮がなんであったのか、あの巨大熱帯魚が、あの潮のせいかはわからないが、事件が起きる前、未然に防げたのだから、僥倖である。

「ちぇー、なんかおんもしれえこと起こりそうだったのになあああ!」

一人不満げな船長も、次の目的を知り、喜々として眼前に目を向けた。

 

そう、自動で水を汲み上げ濾過するサニー号の普段は頼れるマシーンが今回ばかりは悪い方に働いた。

既にいくばくかの不思議な潮を汲み上げ、浄水に混ざりこんでしまったのだ。

すぐに濾過装置は止め、浄水タンクに危険な成分は無いと船医の検査は通ったものの、濾過装置自体がひどく汚れ、早急な清浄が必要であった。

原因がわかっていない以上、万一を考えてできることなら、浄水タンクの水も飲まない方が良いと釘を刺した船医の意見もあり、一味は早急に上陸可能な島を見つけることが急務となった。

 

水が無ければ、食事もろくなものが作れない、それに気づいているのか、いないのか、ルフィは し〜ま、しま、しっま♪冒険しがいのある島だといいなぁ〜と上機嫌で歌っている。

 

その祈りが通じたか、サニー号の面々は、ほどなくしてヤシの木とバニアンが生い茂る、常夏の島にたどり着いたのだった。

船が進むのを利用して、まず一つ目のタンクに海水を汲み上げる。

そこから、浄水システムを通って、濾過された水が二つ目のタンクに溜まっていく。

これは一方通行しか想定していなかった流れだから、その水を捨てると一言で言っても重労働である。

浄水はまだいい。

水道にホースを繋いで蛇口を捻れば、外に向かって放水もできる。だが、海水の方は……人海戦術のバケツリレーが10回を越えた頃、ルフィが音を上げた。

「飽きたー!!せっっっかく島に着いてるのに、つっまんねーぞー!」

「仕方ないだろ!まだ四分の一ってとこだぜ。」

「フランキーはどうしたー!?」

「浄水器を分解して滝壷で洗ってるわよ。」

「よし、ちょっと見てくるか!」

「逃げるな!」

 

 

 

「おうっ!スーパーに終わったぜぇい!

こっちはどうだー!?」

明るいアニキの声にげんなりした視線が一斉に集まる。

「お?なんだ、なんだ。辛気臭えことやってんなぁ!ポンプ作りゃ、いいのによぉ!」 

視線の集中先がウソップに切り替わる。

「あ!」

 

そこからは早かった。

出来たばかりの手回しポンプをあっという間にルフィが破壊したり、ゾロとサンジの勝負になったり、ゾロが回していたポンプがいつの間にか逆回りになり、捨てる端から汲み上げたり、というハプニングはあったものの。

 

なんだかんだと疲れきった一行は、海岸でのバーベキューを楽しみ、そのまま砂浜にござを敷いて休むことにした。

 

 

「おい。」

「……」

「…コック。」

「ん…」

「コック。」

「な…に…」

「起きろよ。向こう行こうぜ。」

「……おれ、クタクタ…」

「抱えて行くか?」

「諦めるって選択肢は無ぇのかよ……。ったく、しょうがねぇなぁ!一回だけだぞ!」

エイヤッと勢いをつけて、サンジが起きあがると、ゾロは先に立って茂みの中へと入って行った。

 

 

「なに、これ?疲れマラ?ガチガチじゃん。」

「てめぇが昼間っからエロくせぇカッコでいるからだろ。」

「どこがだよ!言い掛かりも大概にしろよ、クソマリモ。」

「なに言ってやがる!腕は肘まで捲ってるし、シャツも全開にしやがって、乳首がチラチラ見えてんだよ!何度あの場で押し倒そうとしたかしれねーぞ!」

「な!てめぇなんて上全部脱いでたくせに!」

「暑ぃからな。いつものこったろ。」

「そうだけど!あー、くそ、納得いかねー!

つーか、てめぇ、シャツ脱ぐよりその腹巻き取った方が涼しいだろうによ。」

「こりゃいいんだよ。」

「変なヤツ!もういいや。おら!脱げ!全部脱げ、そういう気分だ。んで、脱がせろ。」

「おう。」

 

全裸で二人ピッタリと抱き合うと、貪るように口づけながら、脱いだシャツの上にそっとサンジを横たえた。

 

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