うなぎ

ゾロはうなぎが好きだ。

蒲焼きは言うに及ばず、う巻き白焼き肝吸い半助鍋まで、この価格高騰の折でも遠慮無く食い尽くす。

小さな頃から山椒のかかった大人風味の奴をガンガン食っていたのを覚えている。

その食いっぷりは、コック志望の俺が見様見真似でうなぎを捌いてやるようになってからも変わらない。





ゾロはうなぎが好きだ、多分。

うなぎは狭いとこが好きだという。

この数ヶ月年上の幼なじみも、隣んちの俺を狭い隙間に引っ張ってっては、秘密基地ごっこばかりやっていた。

庭の隅の草むらや、小さな橋の下や、お互いの家の押し入れの中は、二人でいるとたちまち何かの基地になった。

近所の友達みんなで遊ぶ時は、公園なり河原なり、広いところで元気一杯に遊んだが、二人で遊ぶ時は必ず秘密基地ごっこだった。

小さかった俺は、そういうもんなんだと何の疑問も持っていなかった。



だから幼稚園児だったゾロが、
「だれにもひみつの、おまじないだぞ」
とおでこにキスしてきた時も、
「だれにもひみつのおまじないなんだから、だれにもひみつだな!」
と大真面目に答えた。

ゾロのすることは俺のすることだと、一途に信じていたのだ。





ちゅ、とおでこに交わすだけだったキスが、目元になり頬になり唇になり、やがて唾液をやり取りするようになり、コレおまじないっていうかなんか違うよね?違うだろ!?ってなっても、俺は誰にも秘密にしていた。

つかもう、せざるを得なかった。





秘密基地もどんどん狭くなっていった。

今じゃゾロの部屋の布団の中に、高校生の男二人。

狭い。

つか、息苦しい。





あいつの指も舌も、うなぎみたいだ。

狭いとこ狭いとこ入ってくる。

ヌルヌル、ヌルヌル。





夏休み。

部活の合間に差し入れてやったうなぎ弁当をがっつくゾロを見ながら、呟く。

「お前、うなぎ好きだよな」

ゾロは箸を止めて、ニヤリと笑った。

「おう。11月に向けて、精つけとかねぇとな」





11月11日。

ゾロが勝手に決めた、二人同時の成人式。

「精つけ過ぎて、暴発しやがれ」

そろそろ高くなりはじめた空に向けて、俺はゆっくりと煙を吐いた。

終わり