船縁に寄りかかり、口を開けて真上を仰ぐような格好で寝ている太平楽な青年。
キッチンのドアを開けた途端、目に入った姿にサンジが苦笑する。
眩しいっつう感覚すら鈍いのかよ。
聞こえたかのようにゾロが目を開く。
その視線を受け流してマッチを擦ると、くわえた煙草に火をつけ、マッチ箱をコトンと手すりに置く。
僅かに右に伸びる影。
ゆったりと煙を吐き、ニコチンを味わう。
徐々に動いた影がマッチ箱に重なった。
ポケットから取り出した懐中時計のネジを巻き12時に合わせる、その姿を息を詰めて見つめる剣士。
コックはあの時計で食堂の時計を合わせる。
男で個々の時計なんぞ持ち歩いているのはあいつ位だが、女たちはその時計に自らの時計を合わせるのだ。
移動し続ける自分たちにとって太陽こそ時間だ。
それを正確に把握する一連の作業。
航海の始まりの頃、腹が空けば食い、喉が渇けば飲む自由な生活を口やかましく時間で縛ろうとするコックに反発しまくった。
筋肉を作るのに最適な配分を施した食事も、いつ食えるかわからない体にかかっちゃ贅肉で溜め込まれちまうんだ、そんな言葉に陥落したわけではない。
冷めた食事より温かい食事の方が美味い、それを認めたつもりもない。
でも、いつの間にやら、食事の時間には目が覚め、全員で食卓を囲むのが当たり前になっていた。
その時間すらあいつの管理下だと気づいたときには、ああ、そうか、としか思わなくなっていたな。
不思議なほど、当然のことだと受け入れた。
この船の秩序はあいつによって保たれている。
この船では今から24時間後に、明日の昼が来るわけではないのだ。
そのおかげで、いつ島についても、おれたちは時差と無縁だ。
殺気を感じ、鉛のように重たい蹴りをかわす。
「何しやがる!ぴよコック!」
「こっちのセリフだくそマリモ!メシだっつってんのが聞こえねーか!!一分前に目開けてたくせに無視しやがるとは良い度胸じゃねーか!」
先ほどの感謝じみた感慨が音を立てて吹き飛ぶ。
やっぱり!
こいつは!
天敵だ!!
fin