この証は消えてしまえども

「逃げるなよ!」

 

教壇の上、近寄った分だけ退くサンジが、ひらりと身をかわした瞬間、間合いを詰めてその手を取った。

掴んだ手首はゴツゴツと骨太で、振り払われそうな予感に噛み付く。

サンジがその背を黒板に預け、薄い板はバンと高い音を立てた。

 

歯の形に凹んだ滑らかな皮膚。

舌を這わすと、壁に押し付けた痩身が震えた。

掌を舐め指の股に舌を差し込む。

息を飲む音に顔を向けると蕩けた眦、弛んだ口角。

 

「こんなとこ舐められてヨダレ垂らしてんのかよ、先生。かわいいな」

ギッと力をこめたつもりだろうが、そんな目で睨まれても誘われてるみてえだぜ。

 

慌てて噛み締めた唇の端に流れた涎を舐めて、そのまま唇を塞ぐ。

 

開いたままの窓から、校庭の喧騒が聞こえるのが、別世界のことのようだ。

 

「こんなこと、したら...おまえを離してやれなくなるだろ......」

 

あぁ、バカなヤツ。離してやれねえのはこっちなのに。

再び指の先を噛んで口に含む。

そのまま丸めた指を口に入れ指の付け根をギッと噛む。口に広がる鉄の味。

「痛え?」

ぽかんと見返したサンジの右手が痛みのもとに触れる。左手の薬指に赤い筋。

プルプルと首を振って、サンジはうっとりとその傷に口付けた。

早くそこに、消えない証を贈りたい。

 

fin

chococoさんが素敵なイラストをつけてくれました。サンジ先生色っぽい~!