パッと目を開けると、すぐ隣に緑の丸い頭があった。
ちびなすは、そっと手を伸ばしふにゃっと柔らかいその髪の毛に触れる。
つめていた息を吐き、ホッとしたのもつかの間、声をかけても、髪の毛を引っ張っても起きない兄の姿に、この世で起きているのは自分だけのような不安が押し寄せてくる。
ベッドを抜け出し、階下に降りると、リビングから皓々とした灯りが漏れていた。
ガラスのはめられた少し重いドアを開け放ち、リビングに駆け込む。畳に寝っ転がっていたゾロの腹を踏んづけて転びそうになったけれど、たたらを踏んだ勢いのままキッチンに立つ細い脚にしがみついた。
堪えていた涙が決壊したダムのように後から後からわいてくる。
「こわ、い…ゆめ見て、ぼく、ぼく、食べられちゃっ、て…じょろ、おっきしな、い…」
しゃくり上げながら必死で説明するが、サンジは抱きしめてくれない。
「夢ってわかってんだろ。もう一回寝直したら大丈夫だ」
「しゃんじぱぱ…」
そんなことを言って、今度こそぼくが食べられちゃったら、どうするんだーーため息までつく父は、自分を要らないんじゃないかなんてことまで考えてしまって、ちびなすはワンワン泣きじゃくった。
サンジのスラックスの膝の上は色が変わるほどちびなすの涙を吸い取っているのに、父は手を腰にあてたまま、そろそろ一人で寝られるようにならないと、まして子ゾロも一緒にいるじゃねーか…など呆れたように言い募る。
ちびなすは、夢が怖いのか父に呆れられてしまったことが悲しいのか、自分がなんで泣いているのかもわからないほど、辛い気持ちでいっぱいになった。
そのとき、ふわりと大きな温かい手が自分の頭頂部を撫でてくれるのを感じ顔をあげる。
「しゃんじぃじ…」
「もう、その辺でいいだろ。ちびなす、おいで」
サンジへかける声につられて振り向くと、父は広げかけた両腕を慌てて背後へと隠すところだった。
祖父の力強い腕が、ふわりと抱き上げる。
「しゃんじぃじ、いい匂い」
その肩に顔をうずめようとしたら、父の手が伸びてきてエプロンで涙と鼻水を拭き取ってくれた。
クリアになった視界で、リビングの方に目を向けると、ソファでは祖父から渡されたグラスと自分のグラス両方を空にして笑うゾロ爺と目があった。
先ほど踏んづけたゾロに「じょろとーたん、おにゃかごめんね」と言うと、ハラハラと心配そうにしていた顔にニヤッと笑みが広がった。
「おう」
祖父に抱かれて出た廊下は暗くてさっきと同じようにヒヤッとしているのに、全然怖くない。
背後では、二人の父の声がしている。
「ちょっと厳しすぎるんじゃねえか?ダッコしたい手が寂しそうだぜ」
「てめえらが甘やかしすぎるからだろ!」
ぶふっと祖父が噴き出して、ちびなすを抱く手が揺れている。
「なぁに?」
「おまえのパパも父さんも、おまえが大事で大切で大好きだってさ」
ちびなすは嬉しくなってくふんと鼻を鳴らすと祖父の肩に突っ伏した。
「じぃじも?」
欲張りになったちびなすが顔を埋めたままふごふごと訊ねる。
「あれ?このおちびさんは知らなかったのかな? ゾロジィジも、サンジィジもちびなすと子ゾロがものすごーく好きなんだぞ?」
きゃあ!と歓声をあげたちびなすはぼくも!と祖父の首にしがみついた。
そっと子供部屋のドアを開けると、子ゾロの小さな寝息が聞こえる。シーッと人差し指を口の前に立てて、互いの額をこつんとぶつけた。
そっとちびなすを降ろしたサンジが、子ゾロを抱き上げて壁側に寝かせ直すと、むにゃむにゃと言いながら、手がパタパタと布団の上のなにかを探している。
再びちびなすを抱き上げ子ゾロの横に降ろすと、その手はぎゅうっとちびなすを抱き締めた。
うふふと笑うちびなすを真ん中に、祖父もベッドに横になる。
最強の布陣だ。
もうお化けが来ても怖くない。
ちびなすは、祖父が叩いてくれるトントンというリズムを10数えないうちに、楽しくて良い香りのする夢の中へ引き込まれていくのだった。
fin
文章は以前ブログにUPしていたものです。
みちるのぞむちゃんがイラストをリメイクしてくれたので、こちらでも再掲いたします。
三世代のゾロサン、おっさんじは若い頃にやんちゃしてたのかなw もう孫がいるのです。
みちるちゃんの素敵なおっさんゾサをお爺ちゃんに仕立てる三世代ゾロサン。楽しくて妄想ばかり広がってます。