コーリング 9

偶然が重なり、すれ違いが続く。

今日こそはサンジと過ごす気満々で、早々と入浴も済ませたゾロは階下へ向かった。

そこへサンジが現れた。瞬間、互いに浮かんだ喜色は気のせいか。

サンジは女主人の部屋から現れたのだった。

 

ゾロの顔から血の気がひく。

 

「よぉ、もう風呂入ったのか。おれ、まだなんだけど、このままお前んとこ行っていいよな?」

質問の形を取っているが、決定事項のように話す声がゾロの耳を滑っていく。

 

「部屋に戻れ」

「え?」

 

「今日は・・・疲れてっから、おれぁ寝る。」

 

サンジから目を逸らしたまま、言い捨てて踵を返す。

サンジがどんな表情をしているか気づかないまま。顔に浮かんだ色をゾロは知らない。

 

 

 

極力平静を装って部屋に戻ったゾロは震える手でドアを閉めた。大きな音を立てそうになるのを全神経を向けて抑え、やっと閉まったドアにもたれかかる。

 

「酒、持ってくるの忘れたな。」

 

 

なんてザマだ。

浮気なんかされたときにゃ、重ねて四つに斬ってやる、そう公言もしていたし、そういう気性だと思っていた。

それが・・・いざ、目の当たりにしてみれば 問い質すことすら出来なかった。

 

「なにを聞くっていうんだ・・・」

 

女の部屋からでてきた姿、寝癖のついた髪、乱れた襟元、トレーでも持っていれば、単なる給仕と思うこともできたが。

・・・決まりだろう。

 

 

苛々と髪をかきむしる。

 

思い返せば最初から、あの女に対する態度はおかしかった。

メロメロしなかったのは予兆だったんじゃないのか?

なのに、それを喜んでいた間抜けな自分に腹が立つ。

ここ数日のすれ違いだって、本当に偶然か?

いつだって、忙しいのはあいつで、生活リズムはあいつの手の内じゃないか。

 

 

 

翌日はサンジの朝飯も味がしなかった。

 

昼には作業を理由に帰らず、弁当にした昼飯をウソップが届けてくれた。

 

夕飯さえ、目を合わさないまま、機械的に噛み、飲み込んだ。

 

なんだ。一緒に暮らしてたって、案外 簡単にすれ違えるもんだな。

 

 

ゾロの無表情に拍車がかかり、チョッパーが怯えても、ウソップがおもしろおかしく話しかけても、ゾロは怒りも笑いもしなかった。

 

 

さらに2日が経った夕食時、サンジがこれ見よがしに口を開く。

 

「あぁ、そうだ!これ仕込んじゃわなきゃな~。ウソップ、今晩おれ部屋に戻らねーから。気にすんなよ?」

ナミが徹夜を心配して声をかけるのを軽くかわし、サンジの視線はゾロに固定されていた。

 

もちろん、ウソップと呼びかけながら自分に向けられた言葉と理解している。

 

なのに、夜半に部屋のドアがノックされても、ゾロは出ることが出来なかった。

 

カギをかけたノブをガチャガチャと回されても、ただ息をひそめてサンジが諦めて帰るのを待つのだった。

 

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