距離4

閉じた瞼の上から明るい日差しが瞳を焼く。

サンジが目を覚ますと、隣ではゾロが豪快に鼾をかいていた。

真っ裸で大の字になった、太平楽な姿。

 

朝の様子から、昨夜は寝ていないことはサンジもわかっていた。

それに、あれだけやればな。

サンジの口から苦笑が漏れる。

 

射精がもたらす疲労はお互い様だが、受け入れるサンジのツラさとは違って、

単純に長時間の腕立て伏せに近い体力的な消耗なんだろう。

意識を失ったサンジの体は丁寧に拭われているのに、自分は適当に拭いたのだろう、

腹部で乾いてカピカピになっている白濁を見、サンジが赤くなる。

自分をくるんでいたシーツをかけてやるために体から剥がすと、

動いた拍子に中からドロッと流れ落ちるものの存在に気づく。

 

失神してる間にかき出されてたら、堪らないが・・・問題は中だっつうの!

腹いせにシーツを乱暴にかけ、裸のまま、浴室に向かう。

 

シャワーを出し、壁に肩を凭れかけさせ、片手で後孔を開く。

中に指を差し入れる。

 

うぅ、気持ち悪ぃ。

ゾロが与える快楽も似たような動作から生まれるのに、

自分でやるとどうしてこんなに気持ち悪いのか。

良くてもイヤだけど。

 

指を少し曲げて出す動作を繰り返す。

いつまでもとれないヌメリにため息を吐く。

 

どんだけ出したんだよ、孕むわ、アホ。

 

トロトロとかき出された白濁とそこ自体にもシャワーをかけ、

ようやく肩の力を抜くと、ほぉっと息を吐く。

空っぽの湯船にしゃがみ、湯が溜まるのを待つことにする。

 

事後のこれもいつか馴れるんだろうか。

痛いばかりだった交合がヨくなったように。

後ろでイケるようにまでなったように。

自分ばかりが変わっていく不安。

 

その時、ガチャとドアが開いた。

「なんだ、起きたのか。」

「いや、それおれのセリフだろう、ってかノック位しろ。」

「いねぇから、焦った。」

ゾロは、湯船に溜まりつつある水面を見やり、ユニットバスのトイレ側にあるペーパーやら

タオルやらをぽいぽいとドアの外に投げる。

サンジがシャワーを浴びせると、サンキュと笑った。

 

即席洗い場でガシガシ体を洗う男を見ながら、サンジは考える。

もう、普通なんだ、と。

ゾロは、閨では渇望するようにサンジを求めるくせに、一転ケロッと男同士の仲間に戻る。

サンジだって、今ゾロの裸を見ても何とも思わない。

船でも、しょっちゅう上半身裸になっている男だ、いちいち反応するわけがない。

だけど、チラッとあの嬌態が頭をよぎるときがある。

そんなときに、ひどい不安が襲う、自分だけなんじゃないか、と。

 

抱かれて安心する自分、止めてほしくてナンパする自分、嫌気がさす。

結局、ゾロは思うようには動いてくれず、女性と一夜を過ごしてしまった。

欲しい言葉をくれたのに、意地悪な抱き方をされた。

嫉妬かと思ったら、怒ってないと言う。

 

憮然とした表情で、ジッと見ているサンジに気付き、ゾロがどうした、と声をかける。

「キスしてぇ。」

情欲のかけらもない瞳で見上げながら、サンジが呟くと、

驚きに目を見開きながらも、優しいキスを落としてくれた。

 

「てめぇが何考えてっかわかんねぇ。」

「お互い様だろ、てめぇの方が絶対わかりにくい。」

 

狭い浴槽の反対側に腰を降ろしながらゾロが答える。

互いの腰を足で挟むように向かい合い、正面からゾロが前に手を伸ばす。

「人との距離感で迷ったのなんて、初めてだ。」

サンジがくす、と笑いながらその掌に自分の掌を合わせた。

「こんなに近いのにな。」

 

あぁ、なんだ同じじゃないか。

いつでも、平然とした振りしやがって。

 

 

 

 

夕方、市場で買い物をしていると、昨夜の女性が声をかけてきた。

今夜のターゲットはゾロだった。

近くの店の店主たちがそれを見咎めて笑う。

「兄ちゃん、良いのかい、断っちまって。

 あの娘はあるもん集めてるだけだから、美人局とかじゃねぇし、具合はいいぜ?」

「でも、お目当てがニセモンだと、途中でほっぽり出されるけどな!」

「あるものってなぁ、なんだ?」

「ひひひ、下の毛。その緑色が本物ならお相手願ってみなって。損はしねぇぞ。」

「最近パステルカラーにハマってるらしくてな、一昨日はピンクの髪の兄ちゃんと歩いてるの見たぞ。」

「金髪の兄ちゃんも、いけんじゃねぇか?その色は極上だ!」

 

這う這うの体で逃げ出したゾロとサンジは、脇道に逸れ、プッと吹き出した。

アンダーヘア―コレクター!まじかよ!?

え、おれ、抜かれちゃったの?

と笑いあったあとに、ふとゾロが呟いた。

「盗みに入るか。」

「はぁ?何を?」

「てめぇの毛、あの女が持ってんのムカつくじゃねぇか。」

ぶはっ

サンジは堪らず吹き出した。

なんだ、こいつ!やっぱ怒ってたんじゃねぇか。

 

「なんだよ!?」

「いや?かわいいね~、マリモちゃん。

 妬いちゃった?」

「当たり前だろ!アホ!」

 

キスをねだればくれる。

聞けば答えてくれる。

大丈夫、愛されてる、おれ。

fin